第688話危険でも飛び込まなければいけない状況になっている

「魔物と話す、その危険性を理解した上で言っているんですか?」


人間と全く異なる行動原理、価値観をもつ魔物は、友好的に見えても裏で何を考えているかわからない。突如、約束を破棄することもあれば、かたくなに守り続けることもある。


そんな別の文化を持った相手と、まともに話し合おうとすれば、コレットやエヴァ、そしてリヒトのように痛い目に合う可能性は高い。


特にフィネの悪意については、ゼルマも見てきたはずなのだが……一体何を考えているのだ?


「もちろんだ。危険でも飛び込まなければいけない状況になっている」

「……何が、起こっているのですか?」

「まぁ、そう慌てるな」


すぐに答えることはなく、ゼルマはメイドに追加のワインを入れさせた。

口に含んで香りを楽しんでから飲み込む。


優雅な仕草ではあるが、無駄に時間を使っているなとしか感じない。さっさと話してくれ。


「お前たちは下がれ」


部屋にいたメイドは命令に従って、静かに退室した。


人払いをしたということは、これから広めたくない話をするという合図である。しかも、酒を飲みながらじゃないとやってられない話題である可能性が高い。


面倒なことになりそうだ。


「ラルスはロンダルト王国と周辺国に、何が起こっているのか知っているか?」

「国家間の緊張感が高まっていることぐらいなら把握しています」


各国で信仰されていた教会の権威が失墜して、国王たちは好き勝手に動けるようになった。同じ信徒を抱えている国は攻めてはいけない、なんて教会の声を聞くヤツはいない。


戦力差があれば容易に侵略されてしまう。

そんな世界に変わってしまったのだ。


「ソフィーはどうだ?」

「ラルスさんと同じです」

「ふむ。やはりその程度の情報しか持っていないか」


気になる反応だな。子爵家の当主になって、隠されていた情報を開示されたのか分からないけど、俺たちの気づいていない動きがあるようだ。


ゼルマはグラスを傾けてワインを飲んでから、小さく息を吐き、ゆっくりと話しだす。


「各国で異変が起こっている」


重々しい声に、重大な事件が発生しているのだと察することができた。


「ダンジョンから魔物が暴れ出てくる、もしくは逆にダンジョンが崩壊するという事件が多発しているらしい。隣国ではダンジョンから出てきた大量の魔物を処分するために、ギフト能力持ちを投入したとも聞いている」


なんてことだ。人間の世界ではなく、魔物、いやダンジョンで異変が起きていたのか!


これはマズイ状況である。なぜなら、ダンジョンの近くにあるヤンが危険にさらされていることになるからだ。


今回の異変は俺にとって重要な情報になりそうである。

先ほどの話が、真実であればな。

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