第686話正直な話、ラルスには頼みにくいしな
「魔物は排除したので帰還する」
「ここは、どうするつもりですか?」
「しばらくの間は閉鎖だな。逃げ出した冒険者どもが戻ってきたら、詳しく調査をして安全を確認するさ」
長居したくなかったので、徹底的に調べると言われなくて安心した。
俺にとっては近寄りたくない村でなので、他の冒険者に任せよう。
「それはありがたい話ですね」
「正直な話、ラルスには頼みにくいしな」
笑いながら言われてしまったが、反論はできん。
マルガレーテの視線は壁に向かっていた。俺の気持ちを察して気を使ってくれたんだし、追加情報という形でお返ししよう。
「ここを占拠していた魔物は、ダンジョンマスターで間違いありません。ヤツらは転移魔法が使えるので、すぐにでも戻ってくる可能性は残っています」
「転移魔法か……やっかいだな。妨害したいところだが、何か良い案はないか?」
「ありますよ。ついてきてください」
外に出ると剣を抜く。地面に、樹海のダンジョンで見た模様を描いた。ソフィーは俺が何を伝えたいのか察しているようで、静かに見守ってくれている。
「これは?」
「転移魔方陣の目印です。転移先には必ず、この目印があります」
「これを破壊すれば、転移は邪魔できると?」
「ええ、その通りです。こういった模様を見つけたら消しておく必要があります」
「なるほど……」
説明を聞いた後も、じっくりと転移魔法の目印を見ていたマルガレーテが顔を上げる。ソフィーを見た。
「この目印はあったか?」
「戻ってくるつもりはないのでしょう、ありませんでした」
「この村は使い捨てが前提だった? だったら、何のために占拠した?」
「さぁ? 魔物の考えなんて我々には分かりませんよ」
呪いの実験に使ったかもしれないし、単純に人を殺したかっただけかもしれん。もしくは、配下に加えるためかもな。いくらでも推測できるが確証はないので、マルガレーテに伝えることはしなかった。
「……それもそうだな」
俺の言葉に納得してくれたようで、マルガレーテは思考を中断したようだ。俺たちを真っ直ぐ見る。
「帰ろう」
当然、否定はしない。小さく頷くと、フィネに滅ぼされた村を出て、夜になる前には依頼を受けた町についた。
冒険者ギルドに戻ると、すぐに報酬がもらえたので宿に戻る。
ソフィーとは別の部屋に入って、ようやく一息つける状態になったので、今後のことを考えることにした。
今回の事件はマルガレーテからゼルマに報告が行くと思うが、フィネが絡んでいると知ったら必ず呼び出されるだろう。そして、調査しろと命令が下るはずだ。そうなったらゆっくりする時間なんて取れない。
せっかく手に入れた平和な生活が遠のいてしまったような。そんな気がするぞ。
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