第684話……雨だな
「何かあったんですか?」
後から声が聞こえた。振り返るとマルガレーテを背負ったソフィーがいる。
この場をなんと説明してよいのか分からず、黙ってしまう。相手が人間でもドン引きの行為だっていうのに、魔物がやっているんだから訳が分からない。理解の範疇を超えている。俺が教えて欲しいぐらいだ。
「ラルスさん?」
俺の様子がおかしいことに気づき、マルガレーテを地面に降ろしたソフィーが近づいてくる。
「中を見てくれ。俺は、この場が説明できる言葉を知らない」
ソフィーの眉間にシワが寄った。
不信感を覚えられたかもしれんが、だからといってこれ以上の説明は本当にできないんだよ。道を譲って中に入るのを待つ。
「何があるんですか……」
ダンジョンを探索しているときのように歩きながら村長の家に入ると、足が止まった。
「これは確かに…………何と言えば良いかわかりません……ね……」
ようやくソフィーも俺の気持ちが分かってくれたようだ。壁一面に書かれている名前を見たまま動かない。
覚悟を決めて、もう一回、家の中に入る。
「この部屋では泊まらないよな?」
「ですが、原型を留めているのはここだけです」
「聖剣で村を壊さなければ良かったな」
「そうですね。私も少しだけ後悔しちゃいました」
とはいえ、聖剣の一撃で壁を壊さなければ中に入れなかったので、村の建物が無事ですむ方法はなかっただろう。
「外で野宿。雨が降ったら家に入る、でどうだ?」
「賛成です」
後は雨が降らないようにと祈るだけかと思っていたら、ポツポツと雨が降ってきた。遠くには雨雲があって、もう少ししたら本降りするだろう気配がある。ついてない。
「……雨だな」
「ですねぇ」
教会と敵対していたからか、どうやら俺の祈りは通じなかった。運にも見放されているようなので、今以上に状況が良くなることはないだろう。こういうときは動かない方がいい。
もたもたしていると気絶しているマルガレーテが、ずぶ濡れになってしまうし、早めに行動するか。
「ソフィーは中で待っててくれ」
「ラルスさんは、どうするんですか?」
「あれを運ぶ」
言い終わると返事を待たずにマルガレーテの前に立つ。腕を触ると冷たかった。大量に血が抜けた影響か? まだ生きてはいるが、回復には時間がかかりそうだ。
背負ってから村長の家に入ると、ベッドに置いて残っていた布団をかけた。
目覚めたときに気色の悪い光景を見ることになるが、そこは運がなかったと諦めてくれよ。
村の調査をしたかったが、雨が降ってきそうなので中止だな。今日はもう休もう。
ソフィーと一緒に部屋の隅に移動して床に座る。肩を寄せ合って体を温めつつ眠ることにした。
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