第683話私が背負いますからね
「マルガレーテは生きている……ようだな」
言いながら近づくと、胸が上下に動いているのが確認できた。血を流し続けているので長くは持たないだろうが、生きているのであれば救う手段を持っている。
「いけるか?」
「もちろんです」
駆けつけてくれたソフィーが力強く返事してから魔法を使う。
『ヒール』
聖魔法は正しく効果を発揮した。マルガレーテの傷が塞がって血が止まる。意識は失ったままではあるが、これで死ぬことはないだろう。
「いつ目覚めるか分からない。村の中に移動しよう」
俺たちが持ってきた荷物や馬車は全て破壊されてしまった。野営の道具も木っ端みじんである。雨が降ってきたら今のマルガレーテでは耐えられないかもしれないので、雨宿りできそうな家を探そうと思ったのだ。
「分かりました。私が背負いますからね」
見た目としては問題ありそうだが、戦いになれている俺が自由に動けた方が良いので、ソフィーの提案は助かる。
「頼んだ。俺は先行して様子を見てくる」
魔力を節約するために聖剣を消して、持ってきた片手剣を持って村に向かう。聖剣の一撃を放ったこともあって、木で作られた壁は破壊されていて、一部の建物は原形を留めていない。更地のようになっていた。
近づくにつれて無事な部分も見えてくる。村の中心部はフィネが『魔法障壁』を使ったからか、無事だったのだ。特に村長の家だと思われる一回り大きな建物は、まるごと残っていた。運がいいぞ。
周囲に敵の気配がないので、魔物が隠れていることはなさそうだ。
だが気になることはある。生き残りが誰もいない。
先住民である村人の死体が残っていないのだ。
フィネならアンデッドの素材に使っていると思っていたのだが……ダンジョンにでも送ったのか?
警戒は解かないまま、村長だと思われる家の前に立つ。ドアから少し離れると魔法を使う。
『エアハンマー』
目に見えない空気の塊が、木製のドアに衝突して粉々に破壊した。宙に舞った木片が地面に落ちるが、何も起きない。どうやら罠の類いはなかったようだな。
気を抜かずに家の中に入る。周囲は薄暗いので明るくしよう。
『ライト』
光の球が宙に浮かんだ瞬間、全身に悪寒が走った。別に攻撃されたわけではない。言葉にならない気持ち悪さを感じたのだ。
「血で書いた文字……なのか?」
壁一面に、血でラルスという文字が書かれていた。それだけでも恐ろしい光景なのに、一部には横線が引かれたり、文字が塗り潰されたりしている。愛憎が混ざった光景だ。
フィネとシェムハザが定期的に入れ替わって、このような光景を作ったんだろう。
「ハハハ……」
他人より濃い人生を歩んできた自信はあるが、さすがに言葉を失ってしまい乾いた笑いしか出なかった。
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