第682話くそ野郎が、邪魔しやがって!!
周囲の地面を見ると肉塊が集合していた。
細切れになってもベルハルクは順調に再生していて、予想よりも動きは早い。肉だけでも俺の動きを邪魔できるので厄介だな。
「旦那様の愛は、私だけのもの! 誰にも渡さないんだから……特に男なんかには負けてられない……!!」
切り取った足をくっつけると、シェムハザが立ち上がった。怒りによって魔力が高まっており、穂先を向けて何度も殺すと呟いている。
油断しているように見えて隙がない。攻撃するチャンスをうかがっていると、黒い魔物を倒し終えたマルガレーテが背後から襲いかかった。
振り下ろされる大剣を、シェムハザは振り返って槍の柄で受け止める。
背中ががら空きだ!
下半身を限界まで強化して一足で近づき剣を横に振るったが、シェムハザに直撃する前に肉片が刀身に絡まって刃が鈍くなり、体を両断することは叶わなかった。吹き飛ばすだけに終わる。
「くそ野郎が、邪魔しやがって!!」
ベルハルクが笑っている顔が脳裏に浮かび、さらに苛立ちが強まる。
不死のギフトがここまで強力だったとは思えないので、ヴァンパイア化した影響でギフト能力が変質したんだろう。肉塊から人の体に戻る気配がないので、再生速度を犠牲にして肉片でも動けるようになったか?
肉塊になっても意識が残っているのであれば生きているだろとか、フィネなら言いそうだし、魔物の悪辣さを考えればあり得る話だ。
刀身にからみついた肉片は離れようとしないので、聖剣を消してから聖刻文字の入った剣を抜く。これで攻撃ができると思ったんだが、肉片が飛び跳ねて、また刀身に絡みついた。
「しつこい!」
肉片を剥がそうとするが今度は手に絡みつき、体をよじ登ってくる。
まさか、俺の口を塞いで殺すつもりか!?
そんな間抜けな死に方なんてしたくはないぞ!
焦りながら腕に絡みついた肉片を取ろうとしていると、周囲が光に包まれた。肉片から白い煙が上がって、刀身や腕からボトボトと落ちていく。
これはソフィーの『ターンアンデド』だ! 肉片とはいえヴァンパイアなので効果を発揮してくれた。
慌てていたので聖魔法という手段を忘れていた。
「助かった!」
ソフィーを見ると笑顔だった。やる気が出てくる。
シェムハザを叩ききろうとして走り出すが、先ほど倒れていた場所にはいなかった。マルガレーテは血を流して地面に伏せているので、目を離した一瞬でやられてしまったようだ。生死を確認している余裕はなく、姿を探して空を見る。
「ラルスは殺す!」
「ラルスは輝かせるんだ!」
シェムハザ……いやフィネか?
同じ体で別々のことを言っている。
どうやらフィネとシェムハザで主導権の奪い合いをしているようだ。
手で頭を押さえながら悶えている。
隙だらけなので攻撃すれば、殺せるかもしれない。
聖剣を創造して……って、準備をしていたら、フィネの足下に魔方陣が浮かんで転移されてしまった。ベルハルクも連れて行かれたようで、肉片も消えている。
……逃げられたか。
目的だった村は取り戻せただろうが、どうもスッキリとしない結果となってしまったな。
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