第680話ちッ。嫌みなヤツだ
「行くはずないだろ」
俺が断ってもフィネは笑ったままだ。
まるでこの反応すら楽しんでいるようである。
「やっぱりラルスは変わらない。素敵なままだ」
フィネのなかで何かが盛り上がっているのだろうか、感情のコントロールが甘くなってきているように見える。上気した顔になっており、自らを抱きしめてクネクネと動いている。蛇みたいだ。正直、気持ち悪い。
肉体は変わっても、俺を求める魂まで変質しなかったか。
最悪なパターンだな。
「誰と戦わせるか、悩んでしまうな!」
フィネの魂が強くなったのか、子供のような純粋な笑みを浮かべている。
地面に魔方陣が浮かび上がったので魔法を阻止しようと動くが、横から黒い魔物が俺に向かって文字通り飛んできた。思わず後ろに跳躍して回避してしまう。
どうやらマルガレーテが大剣で吹き飛ばしたらしく、魔石を潰された黒い魔物はグズグズと溶けて消えていく。
「だから、もっと輝く姿を見せていくれ」
無駄に時間を浪費してしまい、召喚を許してしまった。
地面から浮かび上がったのは、胸の当たりに逆さ吊りになった鳥の絵が描かれた服を着ている男――ベルハルクだった。
リカルダ教団の司教で不死のギフトを持っており、エヴァの眷属になっていたはず。この場で召喚したと言うことは、フィネの支配下にあると言うことだ。恐らく、エヴァがフィネに従っているので、子であるベルハルクに対する支配権を持っているのだろう。
これが、自由を求めていた男の末路か。
哀れだな。
他人、それも魔物の力に頼るからそうなるんだよ。
「久しぶりだな。永遠に続く奴隷になった気分はどうだ?」
ヴァンパイアになり不死のギフトまで持っているベルハルクは、老いを克服しており、ほぼ不死の存在だ。血による束縛は消えない。
仮にエヴァが死んだとしてもフィネの影響下からは抜け出せないだろうし、消滅するまで奴隷は確定だ。
「ちッ。嫌みなヤツだ」
「こんな態度を見せるのはお前だけだよ。光栄に思うんだな」
「誰が思うかッ!!」
激高したベルハルクが走り出した。相変わらず、魔力による身体能力強化は神がかっていて、体と魔力の動きがぴたりと一致している。とんでもない上昇率によって、瞬きした瞬間には目の前にいた。
「死ねッ!」
拳が俺の頭に近づいてくる。当たれば原形をとどめないくらい破壊されてしまうだろうが、そんな心配はいらない。頼れるソフィーが攻撃の準備を終わらせていたからな。
『ホーリーランス』
白い矢がベルハルクの頭と胸に刺さって、横に吹き飛んでいった。
怒りによって警戒が疎かになっていたようで、回避や防御はできていない。
ヴァンパイアになったので聖魔法が弱点となり、白い煙を上げながら苦痛によって顔が歪んでいる。声を出さない程度の我慢はできているようだが、いつまでもつんだか。
白い槍は次々と離れては、ベルハルクに突き刺さっていく。
ソフィーの膨大な魔力の半分を使って挽肉にしてしまった。
呼ばれた瞬間に負けるなんて、やはり哀れな男である。
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