第679話私の愛を受け止めてくれッ!!

体を両断したと思ったのだが、後ろに逃げられてしまい、腕を一本切り落とすだけで終わってしまった。


傷口から人と同じ赤い血が流れ出ているが、すぐに塞がってしまった。高位の魔物であれば標準で持っている、自己回復を使ったのだろう。驚くべきことではない。


普通だ、普通。そう思わなければやってられん。


「流石だな。私のラルス」


会話なんてするつもりはないので無視すると、マルガレーテが何か言いたそうな顔をして俺を見ていた。


色々と説明してやりたいところだが、フィネが黒い羽を大きく広げたので、後回しにする。先ずは攻撃をさばいて生き残る方が先決だ。


「私の愛を受け止めてくれッ!!」


黒い羽の周囲に魔方陣が浮かぶと、黒焦げ死体のような人型の魔物が出てきた。


アンデッド特有の魔力は感じない。フィネの体がシェムハザになったことで、アンデッド以外も配下に出来たと考えるべきなのだろう。まともな魔物に見えないのは、フィネの趣味……か? 俺には理解できん。


「断る」


身体能力を強化して黒い魔物を斬り捨てる。聖剣だったからか、首を一刀で両断できた。耐久力はなく、動きは遅い。フィネがわざわざ用意した魔物にしては弱いな。違和感が残る……。


「な、何なんだ! 助けてくれ!」


叫び声が聞こえたので後ろを見ると、黒い魔物がマルガレーテとソフィーに殺到していた。


あれは俺ではなくマルガレーテを殺すために生み出したのかよッ! 昔は常に俺を狙っていたから、フィネらしくない行動を取られると、戸惑ってしまう。


両手剣で黒い魔物を叩き斬っているが、体をくっつけて再生しているので数は減っていない。俺が倒したヤツも首をつけようと動いていたので、体を踏んで左胸を突き刺す。パリンと魔石の砕ける音がして、動きは完全に止まった。


「胸に魔石がある! それを破壊すれば止まるぞ!」

「なるほど! 理解した!」


マルガレーテが返事をしたので、もう大丈夫だろう。ギルド長なんだし、ソフィーを守りながらでも勝てるはずだ。


本当は助けに行きたいのだが、さっきからフィネの発する魔力が尋常ではないので下手に動けない。


「これで二人っきりになれた」


黒い魔物を召喚し終わったようで、羽は閉じた。


体から発する魔力が重力を持ったように感じ、心が折れてしまいそうになるが、こんなところで負けてはいられない。ようやく、理想の生活を手に入れたんだから、フィネごときに壊されてたまるか。


「だからなんだ? 俺はフィネと一緒にいるつもりはない」

「ラルスは何を言ってるんだ? 私の旦那様なんだから、一緒にいなきゃいけない。他の女なんて見られない体にしてあげるから、こっちにおいで」


フィネとシェムハザが融合したような思考をしているようで、今までとは別の意味で訳が分からないことを言いだしている。


理解できない思考だというのは変わらず、恐怖を覚えるほどだ。

肉体が変わったぐらいでは、まともにならないようである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る