第677話私たちは負けません
頑張って作ったであろう木製の壁を吹き飛ばし、白い炎は村の中に進んでいく。このまま突き抜けると思ったんだが、透明な壁に衝突すると勢いが止まった。あちこちに白い炎が飛び散り、村を焼いていく。
教会が誇る聖剣の力が止められたことに驚いていると、ソフィーの手が刀身に触れた。
「私たちは負けません」
魔力を注ぎ込んだようで、白い炎の熱量が増す。周囲の景色が歪み、俺の肌まで焼こうとするほどだ。チクチクとした痛みを感じながら耐えていると、透明の壁を突破したらしく、白い炎が村を通り過ぎていった。
聖剣を消してから、視力を強化して村の様子を探る。
中心に一人の女性がいた。
三対六枚の黒い羽を背負って頭の上半分は兜に隠れており、透き通るような青い髪が腰まで伸びている。あの姿は……。
「シェムハザだ! 生きていやがった!」
元エヴァが種族進化をして強力な魔物になった。生物の肉を食べると魂までも取り込んで、己を強化する特殊能力は脅威だ。種族の限界値はあるだろうが、さっさと倒さなければ、人類だと勝てない存在になってしまう可能性もある。
兜によって隠れているはずなのだが、目が合ったような気がした。
口が裂けるほど広がる。
来る! と思ったときには遅かった。
低空飛行をして高速で向かってくる。
「避けろッ!!」
ソフィーを抱きしめて荷馬車から飛び降りた。ゴロゴロと地面を転がる。後ろから馬の断末魔と荷台の壊れる音がした。
急いで振り返ると、道の反対側に尻餅をついているマルガレーテが、驚きの表情浮かべながら俺を見ている。
「あれはなんだ!?」
「ユニーク級の魔物だ! それも上位のッ!」
「何でこんな所に!!」
マルガレーテは悲鳴のような声を上げた。
ユニーク個体はどれも強く、特殊な能力を持っている。そんな危険な魔物が、なんでここにいるんだと嘆いているのだが、そんな暇はないぞ。
一瞬でも油断すれば、死につながる。
「旦那様ぁぁあああああ!!!! 何でコイツをッ!!!!」
シェムハザはテッブスに対して深い愛情をもっていて、旦那様と呼んでいたのだが、未だに引きずっているようだな。
精神として残っている可能性に期待したいが……待っている余裕はない。
槍を前に出してシェムハザが突進してくる。
ギリギリ目で追える速さなので、無傷での回避は難しい。
『魔法障壁』
円形の膜を作って防ぐことにする。
数秒後には衝突。横に受け流すことに成功した。
シェムハザは頭から地面に突っ込んで、止まる。ケツがつんと上に向いており、間抜けな体勢をしていて、攻撃をして良いのか悩んでしまう。
「どうします?」
ソフィーも似たような考えらしく、俺に聞いてきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます