第676話正面突破しかなさそうだな

何もない一本道を荷馬車が進む。


御者はマルガレーテがやっていて、俺とソフィーは荷台に座り、現地に着くまでノンビリと過ごしている。


強力な魔物が出現しているため、すれ違う人はいない。


「いい天気だな」


空には雲一つなく、心地よい風が吹いている。気温もちょうど良いので、眠くなってきそうだ。


「そうですね。気持ちよく、お昼寝できそうです」


俺の意見に同意したソフィーは、微笑みながら手を重ねてきたので、握り返す。このまま平和な時間が続いて欲しいと願ってしまう。


と、そんなことを思っていたら、マルガレーテが話しかけてきた。


「悪いが、そろそろ切り替えてくれ」


進行方向の先を見ると、遠くに木の壁が見える。外からは村の様子は分からないので、ぱっと見は魔物なんていないように思えてしまう。厳重な村という印象が強く、上級冒険者を飲み込んでしまうほどの恐ろしい場所だなんて、言われなければ気づけない。


「正面突破しかなさそうだな」


装備を確認しながら呟いた。


現場に着けば何か作戦が思い浮かぶと思ったんだが、これは無理だ。隠れる場所はない上に、よくよく観察してみれば村の中に物見櫓まである。俺たちのことも発見されているだろう。


「そうなんだが、どうやって壊す?」


質問をしてきたマルガレーテの武器は両手剣だ。時間をかければ、木の壁も破壊できるだろうが、魔物が指をくわえて待っているはずがない。必ず襲ってくるだろう。


正面から行くのであれば、相手の意表を突くような一撃を放ちたい。


ここは聖女様の力を借りて派手に行きますか。


「村の中がめちゃくちゃになっても良いでしょうか?」

「……生存は諦めている」


この一言は重かった。もしかしたら生き残りがいるかもしれない。そんな僅かな希望にすがりたい気持ちを押し込めて、ギルド長として判断したのだ。


確実に勝つためなら、どんな犠牲も受け入れる。その覚悟、ちゃんと受け止めたぞ。


「わかりました。弔い合戦を始めましょうか」


聖剣を創造してソフィーに魔力を注いでもらう。刀身が光って準備が整った。


荷台から御者席にまで移動すると、立ったまま聖剣を村に向ける。


「これが噂の聖剣か……」


マルガレーテは手を組んで、じっと俺を見ている。


何を、誰に、祈っているのか分からないが、そんなことで気が済むなら好きにさせておこう。


人に見られている緊張感を覚えながら、聖剣の能力を発動させるワードを口にする。


『創造神に反抗する愚かで矮小な者たちよ。私が代行者として審判しよう』


刀身の光が強くなり熱を帯びる。周囲の景色が歪む。込められた魔力が爆発的な速度で増幅した。敵を殺せ、早く解放させろ、そんな叫び声が聞こえるように感じる。


『お前を神敵として認める。即刻、消滅せよ!』


聖剣を前に突き出すと、刀身から光を束ねたような白く太い炎が、村に向かって放たれた。

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