第674話熱烈な歓迎ありがとうございます
ドアにギルド室長と書かれたプレートがぶら下がっている。
案内をしてくれた受付嬢がノックをした。
「ラルス様がいらっしゃいました」
返事が聞こえるに受付嬢は中に入ってしまった。
一瞬だけソフィーと顔を見合わせてから、俺が先頭になって後に続く。
「来てくれて助かった!」
目の前に妙齢の女性がいた。笑いながら両手を広げて近寄ってくると、抱きしめられそうになる。
「ラルスさん、危ないっ!」
驚いている俺を押しのけて、間にソフィーが入った。
なんと、女性同士が抱き付くような形になったのである。
「熱烈な歓迎ありがとうございます」
「おっと、ラルス君には、こんな素敵な女性がいたのか。失礼した!」
ソフィーから離れたギルド長が、笑いながら言った。
「いやー。ホント困っていたところに来てくれたから、年甲斐もなくはしゃいでしまったな」
冒険者が逃げ出してしまうほどの危機だったんだから、気持ちは分かる。打つ手がないのに、民衆や貴族から何とかしろと責められていたことだろう。胃の痛い日々を過ごしていたはずだ。
「詳しい話をしたいから、そこに座ってくれ」
四人が並んで座れそうなソファーが二つ、向かい合うように置かれていた。間にはテーブルもある。
俺たちは片方に座ると、ギルド長が正面に腰を下ろす。彼女の目元には隈があって、睡眠の取れていない状況が続いていると、すぐに分かった。
ロイと立場を交換してやりたいと思ったのは、この場だけの秘密だ。
「私の名前はマルガレーテだ。ギルド長をしている。二人はラルスとソフィーで間違いないか?」
「はい」
代表して俺が答えると、マルガレーテから力が抜けてソファーの背もたれに寄りかかった。
会話が止まったタイミングを見計らったのだろうか、受付嬢がお茶の入ったコップをテーブルに置く。仕事を終えると、マルガレーテを見た。
「早く話した方が良いのでは?」
「おっと、そうだった。もう解決した気分だったよ!」
期待されるのは嬉しいのだが、限度はある。俺がいたら絶対に勝てる、なんて判断をされたら困るのだ。
「油断しすぎでは?」
「ああ、悪い。それほど嬉しかったんだと思ってくれ」
「はぁ……」
マルガレーテが姿勢を正した。スイッチが入ったようで、表情がキリッと真剣なものに変わっている。ギルド長らしい雰囲気になっていた。
「ここから徒歩一日の場所にある村が、魔物に占拠された。種類はわからない。確かめに行ったヤツらは一人を除いて帰ってこなかった。生き残ったヤツも半狂乱で、理性が吹き飛んでいる。ダンジョンマスターなどと呟くだけで、他には何も話さなかった」
「派遣された冒険者のランクは、どうだったんですか?」
聞いたのはソフィーだ。相手の強さを図るために、撃退された冒険者の強さを知りたいと思ったのだろう。
「ゴールドとミスリルだ」
冒険者のランクは鉄から始まり、銀、ゴールド、ミスリル、アダマンタイトと上がっていく。才能があってようやく上位のミスリルに辿り着ける。騎士と同等かそれ以上の実力を持っているだろう。
そんなヤツらが、普通の魔物に殺されたとは思えない。やはり、強力な魔物がいるというのは間違いなさそうである。厳しい戦いになりそうだな。
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