第673話…………多くの人は逃げちゃいました

道中は平和だ。盗賊や魔物の処理をちゃんとやっているようで、街道を使う限り襲われることはない。


車内ではソフィーに膝枕をしてもらって昼寝するぐらいの余裕があり、仲が深まったようにも感じる。御者には悪いと思いつつも甘い生活を数日過ごさせてもらい、ようやく目的の町に到着した。


ここは、占拠された村から徒歩で一日ぐらいの距離にある。どこかピリピリした雰囲気が蔓延していた。


馬車が冒険者ギルドの前で止まったので、降りてから建物に入る。

普段は見かけるであろう冒険者たちの姿はなかった。


「静かですね」


俺が思っていたことを、ソフィーが口にした。


この町ぐらいの規模で、冒険者ギルド内に人がいないなんて、普通はない。みんな依頼で出かけているなんてレアな出来事が、たまたま今日起こったというわけではないだろうし、何か理由があるだろう。


「詳しそうなヤツに聞いてみるか」

「そうですね」


二人で冒険者ギルドの受付カウンターにまで移動する。暇そうな受付嬢が二人いた。


「依頼を受けに来たのでしょうか?」


見慣れない顔だからか、やや警戒しているように感じる。


今すぐ冒険者がいない理由を聞いても、教えてくれないかもしれないな。とりあえず本来の目的を伝えるとしよう。


「エルラー子爵からの指名依頼を受けてきた。確認してくれ」


依頼書をカウンターの上に置く。


領主の名前が出たこともあって、受付嬢は驚いた顔をしながら文字を読んでいる。


しばらくして顔を上げると俺を見た。


ゼルマの推薦があったからだろうか、警戒心は完全に解けているようだ。


「ラルスさん。お待ちしておりました。事件の詳細をお話ししたいので、ギルド長室にまでご案内いたします」

「頼んだ」


席を立った受付嬢の後を追っていく。


階段をのぼっている間に、疑問に思ったことを聞くことにした。


「誰もいなかったが、冒険者はみんな出払ってるのか?」

「…………多くの人は逃げちゃいました」

「村を占拠した魔物が原因だな?」

「はい。中堅の冒険者は拠点を変えてしまい、ベテランは数回にわたる調査で全滅してしまいました。今は少ない新人が簡単な依頼を消化するだけの場所です」


俺が想像していたよりも深刻な状況だぞ。


冒険者が魔物から逃げたなんて、ギルドの沽券に関わる事件だ。普通はギルド長あたりが冒険者を引き留めるのだが、効果がなかったのだろう。それほどの恐怖が、村を占拠した魔物にはあったと考えた方が良さそうである。


「それは大変だったな」

「はい。ですから、ラルスさんが来てくれて助かりました」


後ろ姿しか見えないから表情はわからないが、声からして喜んでいるように感じた。

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