第672話お久しぶりですね

「ふふふ。慎重なところは変わりませんね……て、戻ってきましたよ」


ギルド長室に行っていた受付嬢が帰ってきた。


相変わらず緊張した面持ちで俺の前に立つ。


「すぐお会いするそうです。ご案内いたします」


ガチガチに固くなった声で、よく見ると指先が小刻みに震えている。

……俺のイメージ悪すぎるだろう。貴族のように理不尽な理由でいじめるなんてことはしないから、怯えるのを止めてくれ、と言っても無駄だろう。


思い込みは激しそうだし、何を言っても嫌がらせされるなんて、勘違いされるだけだ。


「場所は知っているから不要だ」


返事を待たずに受付のカウンターから離れる。その際、知り合いの受付嬢にウィンクをして、誤解を解いてくれと再度、伝えた。


ソフィーが手の甲をつねってきたが、多分気のせいだろう。


二階に上がって廊下を進む。


ここに来るのは建築中だったとき以来だな。懐かしい。


廊下の左側には窓があり、右側には壁と会議室につながるドアがある。コツコツと音を立てながら歩いて通路の最奥まで行くと、ギルド長室のプレートがぶら下がっているドアが見えた。


返事を待つ必要なんてないので、ノックしてから部屋に入る。


部屋の中心には机があり、エレノアの兄でありギルド長のロイが椅子に座って待っていた。


肩まで髪が伸びていて、一見すると女性のようにも見える。相変わらず目を糸のように細くして作り笑いを浮かべている。


「お久しぶりですね」


ロイが挨拶をしてきたが、こいつはソフィー暗殺未遂事件に関わっていた。ゼルマから制裁を受けているので復讐なんて考えてないが、仲良くなるつもりはない。やや高圧的な態度でいくと決める。


「俺を呼び出すなんて、何かあったのか?」

「ゼル……いえ、エルラー子爵からの指名依頼がありましたので」


作り笑いを崩すことなくロイは言った。

ゼルマからの依頼と聞いて、気分がいっきにに重くなったぞ。


「内容は?」

「エルラー領の端っこにある村が知能ある魔物に奪われたようです。奪還の依頼が来ています」


ロイはデスクに羊皮紙を置いたので、拾って読む。


魔物は村を占拠して立てこもっているらしい。

詳細は不明だが何らかの儀式をしている可能性もあると書いてあるが、目撃したわけではないので可能性としては低いだろう。


冒険者を何人か派遣したものの、返り討ちにあってしまい細かいことは分かってない。ただ、魔物の口からダンジョンマスターという発言があったみたいだ。


「ダンジョンマスター関連の事件かもしれないので俺を呼び寄せたのか」

「みたいですね。この依頼、どうしますか?」


分かりきったことを聞いてきたな。

小さく笑っているのは、ゼルマに振り回される俺が面白いんだろう。


「受けるしかない。すぐに出発する。ソフィーはそれで良いか?」

「もちろんです。どこまでもご一緒します」


にっこりと返事をしてくれたソフィーだけが癒やしだ。


「馬車はこちらで用意ししています。すぐに乗れますよ」

「使わせてもらおう」


ゆっくりしていられる状況ではないので助かる。


ソフィーと一緒に冒険者ギルドを出ると、占拠された村に向かって馬車で移動を始めた。

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