第670話 明日から叩き起こしてやるから!

新しい家が完成して、双子の姉弟やエレノアとの共同生活が始まった。


長い間、一人か多くても二人で暮らした時間が長かったので、騒がしい日々というのは久々である。


「お姉ちゃんお腹減った~」

「ちょっと待ってなさい!」


リビングから聞こえてくる子供の声は、寝起きには辛い。だが、実家に住んでいた頃を思い出すので悪い気分ではない。


寝巻きから私服に着替えてドアを開ける。リビングに入ると、配膳をしている双子の姉弟の姿が見えた。


姉のララはスープの入った鍋を運んでいて、片目が髪で隠れている弟のルルは取り皿をテーブルに並べている。


ソフィーとエレノアはキッチンで仲良く並び、肉を焼いているようだ。


香ばしい香りがここまで漂ってくる。


「おはよう」


挨拶をするとララが俺を見た。


「遅い! 何時だと思ってる!」

「お姉ちゃん。ラルスさんは忙しいんだから、朝が遅いのは仕方がないよ~」

「でも早起きは大事だ! 遅く起きるのは不健康な証拠!」

「言っていることは正しいけど、僕たちは養ってもらっている立場で~」


俺が朝寝坊したせいで姉弟の言い争いが始まってしまった。


どちらも言っていることは間違ってないので、特に気分は害していない。ただこのまま放置していると、話は終わらなさそうだな。


「ごめん。次から気をつける。もし寝ていたら起こしてくれ」


俺が謝ったことで二人の口は一斉に止まった。弟は何か言いたそうな顔をしているが、姉は勝ち誇ったような表情をしている。


「わかった。明日から叩き起こしてやるから!」


女の子だというのに言葉づかいが荒いままだ。教会だって教育したんだろうが、変わらなかったんだな。この辺については同性であるソフィーやエレノアに任せよう。


「頼んだ」


短く返事をしてから、俺は椅子に座って四人の作業が終わるのを待つ。


テーブルの中心に鍋が置かれるとララが椅子に座り、続いて皿を置き終わったルルも続く。


しばらくしてソフィーとエレノアが分厚い肉の塊を持ってきた。


よく焼けていて、塩や香草がたっぷりとかかっている。


鍋の横に置かれるとソフィーとエレノアも椅子に座った。当然ではあるが、席は俺の左右だ。


「よし、食べようか」


と、俺が言う前から姉弟は仲良く食事を始めていた。


ソフィーやエレノアは仕方がないなといった感じで笑っていて、和やかな空気が流れている。


貴族と関わらないのであればマナーなんて気にしなくてもいいので、しばらくは放置でもいいか。教育は他人任せである。


腹が減ってきたので俺も出来たての料理を食べることにするが、じっくりと堪能するわけにはいかない。今日は冒険者ギルドから呼び出しをもらっているので、さっさと行かなければいけないのだ。


美味い料理なのだが、飲み込むようにして胃袋に詰め込んで食事を終わらせることにした。

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