第669話元気そうで良かった

「それでは二人のところに案内いたしますわ」


硬貨の入った革袋をしまったエレノアは、祭壇の横にあるドアを開けて入っていった。


俺たちも後に続く。飾り気のない細い廊下を歩いていると、中庭が見えてくる。


そこにはシスターが一人と子供が数十人いた。年齢は様々で、小さいと四歳ほど、上の方では十歳以上になる。共通しているのは痩せこけているのと、ボロボロの服を着ていることだろうか。穴が開いていて寒そうに見える。


そんな中に双子の兄妹もいた。


姉のほうは相変わらず気が強いようで、知らない男の子と棒を振り回している。一方、弟のほうは女の子に囲まれて花の冠を作っているようだ。


「元気そうで良かった」


外を見ながらソフィーが優しくつぶやいた。


多分、言葉として漏れ出たことに気づいていないだろう。


「お二人は双子をどうするつもりで?」


道案内していたエレノアが振り返ると俺たちを見ていた。


「一緒に住む予定です」

「ラルスさんも?」

「はい。ですから、エレノアさんもどうですか?」

「いいのかしら」


悩んでいるそぶりをしているが、あれは絶対に行くと決めた顔だ。チラチラと俺を見ていて、アピールしている。


「教会から許可が下りるなら、一緒に住みましょう」

「では、決定ですわね」


ソフィーの要望もあって空き部屋はいくつもある。エレノアが住もうと思えば場所はあるのだ。問題は教会が同棲を許可するかといった部分だ。聖女をたぶらかした罪で牢獄にぶち込まれたくないので、確認しないで進めるわけにはいかない。


「教会の許可は不要なんでしょうか?」


ソフィーとエレノアの会話に割り込んで疑問をぶつけた。


少しでも教会が脅威だと感じるような返事をしたら、ソフィーに恨まれても一緒に住む話をなかったことにするつもりである。


「もう、わたくしを縛る存在はありませんの」


実際に奴隷として行動を縛られた経験があるため、ソフィーとは違った重みのある言葉だった。


「みんなが権力争いしている間に、好き勝手動くわ。今なら、そのぐらいの権力は持っているんですのよ」


なるほど、エレノアが自由に動ける理由がわかったぞ。


未だに教皇の座は空いていて、枢機卿たちは勢力争いに忙しい。エレノアの不興をかってしまえば、一気に不利になってしまうので止められる状況ではない。だから今なら、俺やソフィーと一緒に暮らすという暴挙に出ても問題はないのか。


「では話はまとまったことですし、会いに行きましょうか」


嬉しそうに手を合わせてソフィーが言うと、一人で中庭の方に出てしまった。


双子が彼女の姿を見つけると走り出して抱きつく。外から見れば親子のように見えていることだろう。

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