第668話ソフィーは好きなように生きるべきだ
教会の前まで歩くとアルマがいた。
ほうきを持って落ち葉を横に集めている。
下っ端にやらせればいいのに自分でやるなんて、真面目なところがあるじゃないか。内心で褒めていると俺の存在に気づいたようで、動きが止まった。
「よう。元気そうだな」
挨拶をしてやったというのに、アルマは怒りの形相に変わっていた。ほうきを振り上げて近寄ってくる。
「お前! ソフィー様をだ、抱っこするなんて……!」
そうか! 俺が何をしているのか忘れていた!
ソフィーを抱きかかえていたのでアルマが怒っているようだ。好きすぎるだろ!
教会の真ん前でアルマと闘うつもりなんてないのでソフィーを降ろそうとしたが、しがみつかれてしまって失敗してしまう。思わぬ抵抗であった。
「アルマ姉さん。私がお願いしてやってもらっているんです。そこまでにしてください」
「ソフィーが?」
「はい。もう、自由に振る舞っても良いですよね?」
この言葉に感じるものがあったんだろう。ほうきを下げると、アルマから怒りの感情が霧散した。
「そうだな。ソフィーは好きなように生きるべきだ」
優しく笑うとアルマは教会の中に入っていった。
自分の役割は終わったとでも思っているような行動に見えたな。俺の勘違いかもしれないが、ソフィーは任せたと言われたような気がした。
「このまま教会に入るわけにはいかないから降ろすぞ」
「はい」
これから会う人物のことを考えれば、ソフィーが前を歩いた方がいい。俺は影のように引っ付いて周囲を警戒する仕事に徹する予定だ。
背の高い入り口を通り抜けて教会に入る。左右に木製のベンチがずらりと並んでいて、天井のガラスから光が入り込んで室内を明るく照らす。奥にある祭壇には創造神の石像が置かれていて、エレノアが膝をついて祈りを捧げていた。
教会騎士遠征が終わった後も、エレノアはヤンの教会の面倒を見てくれているのだ。
ソフィーは静かに歩いて祭壇に近づくと、祈りを終えたエレノアが立ち上がって俺たちを見る。
「来たんですのね」
「はい。二人は元気ですか?」
ソフィーが保護した双子のことだ。教会騎士遠征やエルラー家の騒動があって、ずっと教会に預けていた。ようやく引き取る準備が終わったので迎えに来たというわけである。
「もちろんですわ。姉の方はおてんばすぎて、大変でしたのよ」
嫌みではなく純粋に思って出た言葉のはずだ。その証拠に、二人とも穏やかな笑みを浮かべている。無言でバチバチとやり合っている雰囲気ではないのだ。
「それはご迷惑をおかけしました」
と言いながら、ソフィーは金貨が数枚入った革袋をエレノアに渡した。
「子供達を預かっていただいた感謝の気持ちです」
「教会の運営が苦しかったから助かるわ」
寄付する人間が減ったため、どこの教会も運営は厳しいと聞いている。質素な生活をしても赤字との噂だ。ヤンはエレノアがいるので比較的マシな状況だと思うが、それでも影響がゼロというわけではない。本当に助かると思っているのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます