まぶしいまぼろし

ちーずけいく

まぼろし

ミンミンと、蝉が鳴く。

かと言って、することも無い。

ただ惰性を極めた夏休みが明日で終わることくらい。課題には手をつけてない。でもやらない、やらなくていい。だって俺は、



今日死ぬし。



え?急にそんなこと言うなって?知らねぇよ。なんか8月の中旬くらいにぶっ倒れて、運ばれたらなんか知らない病気で?余命は大体8月いっぱい。


別に驚かなかった。あぁ、俺の人生そんなもんかって。そんなもん。

さすがに両親に何も返せずに死ぬのは癪だから、今までのバイト代好きに使ってって言っといた。本当はそれでゲーム買う予定だったけど、買ったところでもう出来ないし。


「お前はそれでいいのか」


さっきから俺の近くでささやくこいつも、多分死神かなんかだろう。なんか死神にしては派手?というかそんな服を着てるが。


「いいんだよ。やることやったし」

「そうではない。お前のやりたかったことは出来たのか?」

「俺のしたかったこと?」


俺のしたかった事…ねぇ。なんかもともと欲なんてない方だねって言われてたし、これといってない。

いや、マジで。


「あと、30分もないぞ」

「あぁ、いいってそう急かさなくても。ゆっくり死にますって」

「…」


それっきり、俺の近くの死神は喋らなくなった。

あと30分。なぜか長く感じる。

あ、なんか今までの生活が思い出されるな。

生まれて、幼稚園行って、小学校…あ、転けてら。こん時から結構体は弱かったんだっけ。で、中学…うお、合唱コンクールで賞取れてガチ泣きしてる時のやつ。懐かし。ガチって練習の時も泣いてたし。そんで高校。高校はまだ1年間しか通ってないけど、バンドだったり色んなことできたなぁ。


うーん、充実してた。

だからって、今後もっと生きたいって生に縋りつくようなタイプでもないし。

これはこれでいい人生?だったんじゃん?



あー、なんか視界ぼやけてきた。なんか水が溢れてる。止まらないや。


「うっ…ひっぐ……なんで…俺がこんな…はやくしななきゃいけないの…?」


…隠すつもりだったのに、なんでだろう。

やっぱあれか?死神が唆したからか?

…………でも、やっぱり自分の心に嘘はつくなってこと、か?


本当は、生きたかった。

だってまだ、17だぜ?みんなが80くらいは生きられる世の中で、まだ17なんだぜ?

あとの60年ちょっと、くれよ。

俺にくれよ。損なんかさせねぇから。

こんなとこで、死にたくなんかねぇよ。

難病?クソ喰らえ。消えろ。


「…生きたかった」


とうとう、零してしまったこの言葉。

死神は、キレるだろうなぁ。

今更なにいってんだって。


「…やっと、言ってくれましたね」

「え?……」


その瞬間、俺は意識を飛ばした。

え?口に出したらすぐにやられるパターンだったの?




そして気がつくとなぜか同じ病室にいた。

枕元のスマホには9月3日の日付。

明らかに、夏休みは終わっている。

余命を、過ぎている。

頭がハテナでいっぱいだった。なんで俺が生きてる?難病で死ぬんじゃなかったのか?


「あぁ、起きたのか」


ちょっと前話してた白髪のおっちゃん。たしか俺の主治医だったはず。


「え…何が……」

「君がもうすでに死の淵をさまよっていた時にね、急にドナーが見つかったんだ」

「ドナー…?」


そんなの初耳だ。そもそも俺の病気は臓器移植がいるやつだったのか


「ちなみにその人って…」

「あぁ…この人だよ。この派手な柄シャツの」


先生が取り出した写真は、おかしかった。




だって、さっきまで俺のそばにいた死神と、同じシャツを着てる男がいたから。

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