第二章 闇への投資
オーキの苦悩
「――どうしてこうなった」
エデン王城の玉座に座る、
短い金髪に爽やかな面貌で、長身に引き締まった肉体。
責任感が強くまっすぐなその男の名は、『オーキ・クルト』という名だ。
最年少で騎士団長になり、そしてすぐに前王レイスの罪を暴き、王へと担ぎ出された男だった。
「こんなはずじゃなかっただろう」
オーキはただ、人一倍愛国心が強く、国を貶めるような行為が許せなかっただけだ。
あの日、宰相キグスにレイス王の数々の売国疑惑を知らされ、正義のためにと立ち上がった。自分を騎士団長に、と推薦してくれたキグスへの恩もあり、信頼していたからというのもある。
そしてレイスを捕えた後、プリステン家の全員が加担しており、他国から不当に得た金をそれぞれ分割して所持していると誰かが言った。
それでキグスがオーキの命令も待たずに投獄したのだが、それが間違いだったのだ。
まるで口封じだとでも言うように、全員が毒殺された。
もしこれが本当に情報隠蔽のためだと言うのなら、行方をくらませたランダーが一番怪しい。
「君とは正々堂々と決着をつけたかったよ」
オーキは目を閉じ、悲壮感溢れるため息を吐く。
ランダーとは、新米騎士だったときからの付き合いで、エデンの政治や経済など、様々なことを熱心に語り合った。年は一回りほど離れてはいたが、彼の博識ぶりにはいつも驚かされ、気付けば親友と呼べる存在にまでなっていた。
だがある日、オーキはランダーへ初めて嫉妬というものを覚えた。
ランダーが美しい赤髪の女騎士を護衛につけたからだ。オーキは彼女に一目惚れしたが、もちろんそれだけではない。
その女騎士アリサが、ランダーへ恋い焦がれるような情熱的な瞳を向けていたからだ。オーキがどれだけ出世して、アリサにアピールしても、彼女の心はランダーの方へ向いていた。
そんな日々を続けることで、オーキの心には、秘かにだが激しい嫉妬の炎がメラメラと燃え続けていたのだ。
オーキはふと思う。
もしかすると、自分がプリステン家に刃を向けた本当の理由は――
「――いや、そんなはずはない」
オーキは首を横へ振った。
そんな理由はあってはならない。
彼は己の正義を貫き、このエデンを導かねばならない存在なのだ。
王の座につくことになったのも、その責務を果たすためだと考えている。
「――王様!」
宰相のキグスが部屋へ入るなり慌てたように声を上げた。
彼はもう六十にもなる白髪の痩せ男で、神経質そうな顔は政治家としての迫力がある。
「どうした? ランダーが見つかったのか?」
「それが、ランダー元王子の護衛を務めていた女騎士が行方をくらませたのです」
「なに!?」
オーキが焦ったように大声を上げ、立ち上がる。
王がそれだけで取り乱すなど、あってはならないことだが、オーキも気が気でない。
彼の内心を知ってか知らずか、キグスは神妙な表情で告げた。
「彼女はランダー元王子に最も近かった存在。もしかすると、共犯者かもしれませぬ。そこでどうでしょう? 城下町に住んでいる彼女の家族を――」
「ダメだ!」
「し、しかし……」
怒鳴るオーキに、キグスは怪訝そうな表情を浮かべる。
しかしオーキは首を縦には振らなかった。
「彼女がそうと決まったわけではないだろう。まずはランダーの行方を探すことと、この国での新たな政治に注力してくれ」
「……かしこまりました」
キグスはなにか言いたげだったが、オーキは険しい表情で睨みつけ、それ以上言わせなかった。
キグスが立ち去ると、オーキは悲しげに眉尻を下げ呟いた。
「俺が本当に欲しかったのは、こんな玉座なんかじゃない――」
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