死人に口なし

 それから数日、宿代もかかるようになったことでノベルは仕事探しに奔走した。

 浴場の使用や食費も考えると、今の手持ちでは一か月程度しか生活できないだろう。

 だが、そう簡単にいい仕事が見つかるわけもなく、日雇いのものも受けてみたがあまりにも費用対効果が悪かった。


 その日の午後、ノベルは腹をくくりハンターギルドを訪れていた。


「いらっしゃいませ~」


 受付の獣人娘が猫耳を可愛らしく揺らしながら声を上げる。

 ノベルは軽く頭を下げると、壁際のクエストボードへ歩いていき、腕っぷしの強そうなハンターたちに交じってクエストに目を通し始めた。

 ノベルは正直なところ、ハンターは避けたかった。ハンターと言えば聞こえはいいが、結局はフリーランスの仕事であり、収入が安定しないのだ。

 エデンでは、仕事の自由度が高いからということで、製造業である鍛冶屋と並んで人気だったが、それは戦闘能力に長けている者に限る。

 ここのクエストをざっと見る限り、ノートス周辺に出没する魔物から毛皮や牙などの素材を集めるものが多く、貧弱なノベルにこなせそうなものはない。おまけに、報酬もエデンと比べて少ないときている。ノートスの場合、まっとうな職につけない者が多く、クエスト奪い合いが激しいのだろう。周囲を見回すと、ガラの悪い獣人や鬼人も多くいるので納得だ。


「はぁ……」


 ノベルは大きなため息を吐き、悲壮感漂わせながらクエストボードに背を向ける。

 多くの一般人が勘違いしていることだが、一部の高ランクハンターを除いて、ハンターギルドで本当に稼いでいるのは、ギルドを運営している商会だ。

 商会は、製造業に対して素材を売るのが大きな収入源で、それを入手するためにクエストを発注して素材を仕入れるのだ。ハンターに外注することで仕入れのコストを抑え、しかも同時に大量の仕入れができ販売先も多い。

 ハンターギルドを運営する商会は、もはや一種の商社であり、最も安定した職業なのだ。

 ゆえに、高い収益を求めるのであれば、ハンターという職業は目的に合致しない。


「――ありがとうございました~」


 元気な看板娘の声を背に、ノベルはとぼとぼとギルドを後にした。


 たいていは、まず体を資本として労働力を売うることで種銭を稼ぎ、それを元手に金融で増やしていくのがセオリーだ。

 しかしエデンの王子だったノベルは、最初から潤沢な金があり、その最初の過程をすっとばして投資で成功した。

 だからこそ今、労働が一番の難関なのだ。


 そうしてなんの成果も上げられず歩き続け、疲れてきたところで公園に入り、適当なベンチに座ろうとする。


「ん?」


 すると、ベンチの足元に一枚の紙が落ちていた。おおかた誰かが捨て、風に吹かれて引っ掛かったのだろう。

 ノベルはそれを拾い、ベンチに座ってから広げてみる。

 どうやら、情報紙と言われる新聞記事のようなものだった。世界情勢や流行などについて、一枚の紙に書き記されている。

 情報紙を出しているのは、『スルーズ商会』という情報屋のようだ。

 いつか投資してホロウ商会のように繁盛させたいと思いながら、流し読みしていると、ある見出しを見て目が止まった。


「そんな……」


 手が震える。

 心臓がバクバクと脈打ち、冷静な思考ができなくなる。

 ノベルは食い入るように、その内容を今一度読み返した。


 ――一週間前、帝国エデンにおいて売国行為の疑惑により、王とその一族が投獄された。行方不明の第三王子を捕え次第、真相を究明すると騎士団長は発表したが、ついに見つからず、第三王子抜きで尋問をすることになった。

 しかし尋問を予定していた当日、投獄されていたプリステン一族は全員死亡していた。

 何者かに毒殺されたようだ。

 この悲報に騎士団長は怒り、第三王子ランダー・プリステンが口封じのために一族を抹殺したものと断定。

 押収したランダー王子の金庫番口座には、想像を絶する大金が預けられており、独裁国家レブナントとの裏取引で得た利益であることは想像に難くない――

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