第五十二話 ホワイトデーもやっぱり乙女の戦場でした その一

 今日はホワイトデー前日。

 新田家の台所ではお母さんがバレンタインデーのお返しの手作りクッキーを作る陸くんを指導中。今回は陽菜が大好きなカントリーマーム風のしっとり柔らかなソフトクッキーを作ることにしたようだ。ちなみに妹の結衣ちゃんもリビングから見守り中だ。


「じゃあさっそく作り始めるわよ。まず薄力粉の代用としてホットケーキミックスを使うこともあるけど、ベーキングパウダーや香料が入っているので本来のクッキーの風味や食感を重視して今回はパスするわね」

「ふむふむ、勉強になる」

 男性用エプロンを着けた陸くんが頷く。うん、料理好きなお父さんみたいで格好いいね。


 陸くんがお母さんから指導を受けた作り方はざっとこの通り。材料は薄力粉,卵黄,バター,砂糖,生クリーム,チョコチップだけだ。


 ①室温に戻したバターと砂糖をボールに入れ、泡立ててクリーム状に混ぜる

 ②クリーム状になったら卵黄を加えて混ぜ合わせる

 ③卵黄が混ざったら生クリームを加えてよく混ぜ合わせる

 ④振るった薄力粉を加え、へらで切るようにさっくりと混ぜ合わす

 ⑤粉っぽさが無くなったらラップに包んで冷蔵庫で三十分寝かす

 ⑥三十分後、冷蔵庫から生地を取り出し、生地を切り分けて軽く丸める

 ⑦チョコチップを生地に練りこんで再度丸める

 ⑧丸めた生地をオーブンシートを敷いたトレーに並べる

 ⑨指で押して中央部を平たくしたら予熱したオーブンで十三~十五分焼く

 ⑩焼き色を見ながら生地の周りにうっすら焼き色が付いたら焼き上がり


「モグモグ……。うん、まぁまぁかな。後は粗熱を取ってから一日寝かした方がしっとりして美味しいのよ」

 やったね! お母さんが陸くんのクッキーに合格点を出してくれた。


「へー、見た目は良さそうだけど、お兄いのクッキー美味しいのかなぁ?」

 妹の結衣ちゃんはそう冷やかすが、陸くんは満足そうに出来上がったクッキーを味わっている。


「そこまで言うなら結衣も一個食べてみろよ」

 そう言って陸くんが結衣ちゃんの口の中に無理やりクッキーを詰めた。

「モグッ……。うん、クッキーがしっとり柔らかでとっても美味しい! これならお義姉ちゃん(陽菜ちゃん)も喜ぶんじゃないかな」

 食いしん坊の結衣ちゃんが太鼓判を押す。


「アォン!(陸くん、お疲れ様)」

 チョコが入っているクッキーはあたいには食べられないが、そんなあたいから見ても美味しそうなしっとり柔らかソフトクッキーだった。


「それじゃあラッピングして明日義娘(陽菜ちゃん)に渡せるようにしましょうか。結衣、ちょっと手伝って」

「はーい」

 お母さんと結衣ちゃんが出来上がったクッキーを袋に入れ、綺麗にラッピングしてくれた。


「みんな、ありがとう! きっと陽菜も喜んでくれるはず……」

 家族みんなの応援に陸くんが嬉しそうに微笑んだ。


 今回あたいは何もお手伝い出来なかったけど、明日のホワイトデーに陸くんから手作りクッキーを手渡される陽菜の笑顔が今から楽しみだね。

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