第五十一話 【side陸】バレンタインデーのお返し

 バレンタインデーに陽菜が作ってくれた半生ガトーショコラ。しっとりした中に濃厚なチョコの味わいがあるチョコケーキは俺への愛情が感じられて本当に美味しかった。これは陽菜へのお返しが大変だな……。今年のホワイトデーに俺は何を返そうか、ももの散歩をしながら、あれこれと考えてみる。


 お洒落なアクセサリーや陽菜が大好きなカントリー雑貨も勿論喜ぶと思うのだが、もっと陽菜への愛情をダイレクトに伝えられるものにしたい。うーーーん、何が良いかな……。やっぱり女子に人気のスイーツ路線か。あっ、手作りクッキーもいいな。


 そうそう、手作りといえば最近陽菜の料理の腕前が半端ないぐらい上手になった。「男(陸)をつかむなら胃袋をつかめ」と陽菜ママとうちの母親が花嫁修業としてオフクロの味を伝授しているのだ。そのため俺好みの味が和洋中で再現できるようになってきている。でも確かに陽菜のご飯、美味いんだよなぁ……。


☆☆☆


「陽菜、お前の味噌汁が毎日飲みたいんだ。俺と結婚してくれ!」

 俺は清水の舞台から飛び降りる覚悟で、生涯の伴侶となってくれるよう、幼馴染の恋人である陽菜に懇願する。


「陸……あたし、その言葉をずっと待っていたの。本当に嬉しいわ! えぇ、えぇ、結婚しましょう。絶対幸せになろうねっ‼」

 陽菜が満面の笑みで俺との結婚を承諾する。そして二人はそのままベッドへ……ムフフ。


☆☆☆


 ハッ、いかんいかん。アブナイ妄想にふけってしまうところだった。


 ももは俺の妄想に呆れているかのようにブルブルと首を振りながら、ヒメ神社の境内でいつものお参りポーズを取っている。


「ヒメ神様。将来陽菜と結婚出来るよう、もっともっと陽菜にふさわしい男になりますので、どうか見守っていてください」

 ももと一緒にお参りしつつ、白い息を吐きながら俺の願いごとをヒメ神様へと伝える。


 その時ビューッと神社の御神木の枝が風に揺れ、『うむ、頑張るのじゃぞ』という声が一瞬聞こえたような気がした。ももの方を振り返るが、特にいつもと変わらず、ハァハァと口から舌を出して微笑んでいる表情だ。


 えっ? 気のせいだったのか……。でも空耳かもしれないが、この神社にももと一緒にお参りするようになってから、確実に陽菜との恋仲は進展してきたと思う。


「もも、帰りは走って帰るぞ! 家でおやつが待ってる‼」

 ヒメ神様に自分の願いごとを聞き届けてもらえたような気がして、俺はとても嬉しくなった。


「ワンッ!」

 ももも嬉しそうに巻き尾をブンブン振ると、リードを引っ張りながら自宅に向かって一目散に駆け出した。やっぱり四駆は馬力(犬力?)が違うなぁ。


 早く陽菜にプロポーズできるような素敵な大人になりたいな……。元気一杯なももと一緒に走りながら、俺は心の底からそう願った。

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