第四十九話 初夢は一富士二鷹三茄子

 新年明けましておめでとうございます。あたいは新田ももです。

 今年もよろしくお願いします。


 元旦は一年で一番の稼ぎ時となる初詣を迎え、ヒメ神社で巫女風の白と赤の服を着せられて、社務所でお札とお守りの販売を支援中。もちろん陽菜と結衣ちゃんもボランティアとなるが、昨年同様、巫女姿でお手伝いしている。


 そして、なんと! 今年からあたいの顔が刺繍された安産お守りも販売開始されたのだ。犬は安産の象徴なので、妊娠5か月目に入った妊婦さんが、最初の戌(いぬ)の日に腹帯を巻いて、五穀豊穣を司るヒメ神社へ安産祈願のお参りをする風習がここ緑の丘にはあるのだ。


 あたいが参拝客に愛想と尻尾を振りまいた効果もあり、安産お守りは結構な人気となったようで、宮司さんもホクホク顔だった。ヒメ神様にも貢献出来てあたいも嬉しいよ。


◆◆◆


  昨年末のクリスマスに新たなスキルとして授かったの力。何度か試行錯誤した結果、身近な他者の夢に入り込めることが分かった。どうやらヒメ神様が特定の人間の夢に顕現され、お告げを行うのと似た能力のようだ。


 新年最初の夜、あたいは新田家のみんなの初夢を覗いてみることにした。ちなみに初夢では「一富士二鷹三茄子」を見ると縁起が良いらしい。もし新田家の誰かが悪夢を見ているようであれば、あたいの力で縁起の良い夢へと修正しようと思う。


 みんなが寝静まった深夜、あたいはムクッと起き上がり、夢見の力を発動させるべく精神集中。次の瞬間、あたいの体がふわっと軽くなる感覚が……。

 うん、成功だね。あたいは霊体となってふわふわとみんなの寝室へ向かう。


 最初は気持ち良さそうに寝ている結衣ちゃんの夢からかな……。


「うーん、むにゃむにゃ。もう食べられないよ……」

 これは見る前から大体想像できるね。食いしん坊の結衣ちゃんらしい。夢の中を覗くと案の定、結衣ちゃんはお皿に山盛りになったパンケーキをホイップクリームとメイプルシロップをかけてムシャムシャ食べていた。周りにはパフェやケーキなど、スイーツが盛りだくさんだ。幸せそうな結衣ちゃんの夢を見てあたいも一安心だ。


 さて次は枕を大事そうに抱えて寝ている陸くんの夢へ……。


「うーん、陽菜ぁ……」

 こちらもどんな夢を見ているのか大体想像できる。先日のクリスマスイヴに陽菜と一緒に大人の階段を一歩上った陸くんだったが、その夢の中ではさらにその先を上っていた……。あわわわ、これ以上はあたい見てられないよ‼ 将来的には絶対叶う夢のはずだが、中学生にはまだ早いよね。まぁ陸くん自身には良い夢のようなので、これも一安心。


 ちなみにお母さんは陸くんと陽菜の子供(初孫)を大事そうに抱えてあやす夢、お父さんは尺物(30.3cm)のイワナを釣り上げる夢だった。


 うん、縁起の良い一富士二鷹三茄子の夢ではなかったけど、みんなが楽しそうな夢で良かったよ。


☆☆☆


 一通りみんなの夢を見終えてあたいが寝床で寝始めると、ピコーンという音とメッセージが頭の中に響いた。


「おめでとうございます! あなたの善行レベルが一つ上がりました」


 それじゃああたいも縁起の良い初夢を見ようかな。おやすみなさい……。あたいはスヤスヤと眠りについた。

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