第四十三話 クリスマスがやって来た! その一

 今年もあとわずか。あたいは先生じゃないけど、毎日散歩のたびに元気に走ってる。今日は陸くんの妹の結衣ちゃんと一緒に散歩中。それじゃあヒメ神社へお参りしますか。


 拝殿の前に来ると、あたいはいつも通りお座り姿勢になり、まずは二回頭を下げ、それから両方の前足を上げ、出来るだけ揃えるポーズを取りながら二回足元の石畳に向けて両足をゆっくり振り下ろし、肉球でポンポンと叩く。最後にもう一度頭を下げてお参り終了……。すると拝殿からヒメ神様が出てこられた。周りの時間を一時的に停めているみたい。


「ヒメ神様、ご無沙汰しております」

『おぉ、ももか。久しぶりじゃの』

「えぇ、最近はヒメ神様もお忙しいようですね」

『うむ、今年は天候不順が続いて農産物の出来具合を心配する者が多かったからな』


 五穀豊穣を司るヒメ神様としては地元の農産物の出来具合が気になるようだ。結果としてヒメ神様のお蔭か、今年緑の丘では豊作に近い状況だった。


『ところでももよ。いよいよ明後日はクリ……げふんげふん、〇〇スじゃな』

「はい? あぁ、クリ〇〇スのことですね。新田家でもケーキとチキンを用意してお祝いするんですよ。あたいもご相伴に預かるんです!」

『ふむ、わらわには直接関係ないイベントなのだが……少し協力して欲しいのだ』


 ヒメ神様によると、神社の境内を遊び場にしている学童保育の小学生たちを招いて、神社の氏子集会所でお祝いしてあげたいとのことだった。日本は一神教ではなく、八百万やおよろずの神を信仰しているので、クリ〇〇スにも寛容なのだ。但しヒメ神様としては表立って肯定できないかもしれないので、あたいはうまく話を合わせた。


『なかなか信仰心の厚い子供たちでな。親たちが仕事で忙しい中、せめてこの日ぐらいはわらわが慰めてあげたいのだ』

「ヒメ神様、それは素晴らしいですね!」

『そこでだ、お主にはトナ……げふんげふん、いや鹿の代わりを務めて欲しい』

「ヒメ神様のお願いでしたら、あたい何でもしますよ」


 ヒメ神様から鹿の代役を頼まれたあたいは、即座に引き受けた。


「でも……あたい一人ではここまで来られませんよ?」

『それは心配するな。宮司の夢の中で明後日に氏子集会所を開けるよう指示しておいた。あとは……結衣の身体をちょちょっと借りてな』


 なるほど、結衣ちゃんはサン〇〇ロースの代役なのか。


「ところでヒメ神様、衣装はどうするのでしょうか?」

『結衣とお主には初詣用の巫女衣装を着てもらう。結衣には紅白の帽子、お主には鹿のツノ付きの被り物を用意する。あとお主のお鼻は黒いので、赤色の紅を塗ってもらうぞ』

「……そこだけは真似るんですね」

『うむ! わらわは形から入るからな。そうそう、当日ケーキとチキン、それに子供たちへのプレゼントを買うお金を結衣のポシェットに忍ばせておこう』


 ヒメ神様が上機嫌に胸を張る。当日の段取りを打ち合わせてからあたいと結衣ちゃんはヒメ神社を後にしたのだった。

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