第四十二話 黒澤池のたたら祭り

 季節は秋。緑の丘ももうすぐ紅葉シーズンだ。この時期、緑の丘では『黒澤池のたたら祭り』が行われている。名前はおどろおどろしいが、実は緑の丘には西暦百年代(卑弥呼が活躍していた弥生時代)の古墳があり、黒澤池の近隣で見つかった置塚遺跡も国内最古級といわれる古代製鉄遺構と言われているのだ。


 黒澤池近隣公園の置塚遺跡は古墳時代初頭(三〜四世紀)のもので、遺跡から製鉄炉跡が発見され、専門家の間で注目を浴びたのだ。日本で鉄器が使用され始めたのは紀元前四世紀ごろ。その後、自国で製鉄をするようになったのは六世紀ごろからと言われているため、三〜四世紀の遺跡である置塚遺跡から製鉄遺構が発見されたのは歴史的にも重要なことなのだ。


 十一月は鍛冶・鋳物師・たたら師・白銀屋など、火を使う職人が神様を祭り、道具を清める「ふいご祭」が全国各地で行われる季節でもあり、緑の丘でも製鉄をテーマにした『黒澤池のたたら祭り』が開催される。当日は和・洋鍛冶の実演や体験、古代製鉄再現実験や製鉄文化の学術的解説も行われるそうだ。以上、ヒメ神様からの情報提供でした。


◆◆◆


 十一月の中旬の日曜日、あたいは陸くんと陽菜と一緒に祭り会場へ到着。

 陸くんと陽菜は鍛冶の実演に興味があるようだ。


「あれっ、君は新田陸くんじゃないかい」

 以前お世話になった、ちーき新聞の尾崎記者だ。(第八話参照)


「尾崎さん、お久しぶりです。今日は祭りの取材ですか?」

「いやいや、個人的に興味はあるけど今日はプライベートだよ。頑固親父のお伴でね」

 尾崎記者が後から歩いてくる恰幅の良い壮年の男性を指差す。


「お父さんとご一緒ですか」

「うん、父は昔自衛隊に勤務していたんだけど、今は防衛省にいるんだ」

「へぇー、偉いんですね」

「いやー、ただの頑固親父だよ。日本刀鍛治に興味があるらしいね」

 尾崎記者が苦笑している。


「可愛い柴犬だな」

 その時、尾崎記者のお父さんが近づいてきた。あたいをじーっと見ると頭をなでなでし、身体周りをしつこく触ってくる。やーん、恥ずかしい。


「なるほど……。あいつが夢中になる理由が分かったよ」

「うん? あいつって誰ですか」

「いや、こっちの話だ⋯⋯。ところで君がこの犬の飼い主なのかな?」

「はい、新田陸です」


「そうか。私の(面倒くさい)部下が職場に持ってくる日本犬雑誌の『Shiba-Inu』をよく読んでいるんだ。本当に元気いっぱいなワンちゃんだね」

「はい! ももは本当に元気な女の子なんです」

 陽菜が自慢げにあたいを褒める。


「ふーっ、あいつも苦労しそうだな」

 尾崎記者のお父さんはそう言ってため息をつくのだった。


 ??? この時のあたいは尾崎記者のお父さんが言っていることがよく理解出来なかったが、後になって考えてみるとまさに正鵠を得ていたのだ。

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