第三十九話 里帰りしました その二

 いよいよあたいの生まれた実家で父ちゃん、母ちゃん、それに弟たちとの再会だ。やっぱり少しだけドキドキするね。ちなみに父ちゃんは黒柴、母ちゃんは赤柴、弟たちは黒と赤一匹ずつだ。


 まず母ちゃん犬が登場。あたいに向かってリードを引っ張りながら後ろ足だけの二足歩行で尻尾をフリフリしながら近づいてくる。あたいは少し引き気味だ。うん、母ちゃんは単純に好奇心で近づいてくるだけであたいのこと、全然覚えてなさそうだ。


 次に父ちゃん犬が登場……なのだが、あたいがじっと見るとぷいっと顔をそらせる。あたいが近づいていくと後ろへ逃げの姿勢だ。父ちゃんもあたいのこと、覚えていないみたい。


 最後に……弟たち。幼犬の頃は毎日遊びまくっていたけど、やっぱり姉であるあたいのことは覚えていないようだ。


 何となくこうなる結果は見えていたが、現実になると少しショックだ。ブリーダーさんがみんなに「柴犬って親子の情って殆どないんですよ」と説明しているが、感動の親子・姉弟再会を期待していたみんなはテンションだだ下がりだった。

 

 こうしてあたいの里帰りは無事(?)終了した。


◆◆◆


 昼からは気分転換のため、近くの川に設置された鮎の観光やなへ移動。ちなみにとは幅十一メートル、長さ十八メートルのやな床に、川の流れをすり鉢状にせき止め、流れをやな床に集めることで流れを集中させ、その流れの速さに負け落ちた魚を捕る漁法のことだ。


 あたいがいるため、みんなは外のテーブル席で食べることになった。鮎の塩焼だけのあゆ定食もあるが、一段上のグレードのやな定食は鮎の塩焼、鮎のフライ、鮎飯など豪勢だ。他にも炭火の炉端焼で鮎を焼くことも可能で、今日は養殖ではなく天然物があるようなので、みんなで天然の鮎を頂くことになったが、夏の炉端焼きは暑いので相応の覚悟が必要だね。

 

 ジュージュー……。いっぱい並んだ鮎が炭火で焼かれて少しずつ焼き色が付いてくる。お父さんは川魚の焼き方に関してはイワナ・ヤマメで経験豊富なのだが、あえて陸くんと陽菜の前に並んでいる竹串に関しては触らないようだ。これは陸くんに対し、陽菜へ男をせろっていう親心なのかしら……。


「陽菜、鮎が焼けたよ」

「ありがとう、陸。わー、美味しそう!」

 焼き上がった頃合いを見て陸くんが竹串に刺さった鮎の塩焼を陽菜へ手渡す。陽菜もあちちと言いながら、陸くんから鮎を受け取る。


「モグモグ……うん、はらわたの苦みもあるけどとっても美味しいよ! はい、陸も少し食べてみて」

 陽菜が満足げな笑顔を浮かべて、食べていた鮎を陸くんへ差し出す。


「どれどれ……うん、確かに美味しい。やっぱり天然物は養殖とは違うな!」

 陸くんは違和感なく、陽菜が食べていた鮎をもらって食べている。


「はいはい、ご馳走様……。でもこの鮎、本当に美味しいや」

 炭火の熱で少し汗をかいている妹の結衣ちゃんも二人のラブラブ攻撃でお腹いっぱいらしい。


「みんなー、鮎が焼き上がるからどんどん食べてね」

 お母さんが焼き手のお父さんから焼き上がった鮎を受け取り、みんなに配る。


 あたいにもお裾分け欲しいなぁ……。この後、陸くんから少しだけほぐした鮎をもらいました。陸くん、ありがと!


◆◆◆


 食後はお約束のやなへ。やなには鮎だけでなく、色々なものが流れてくる。ニョロニョロと細長い魚もいるよ。あたいは水際でニョロニョロにぷにぷに肉球タッチだ。


「きゃっ、川の水が冷たくて気持ちいい~」

「ほらっ、陽菜。上流から鮎が流れてきたよ」

 水際にサンダルで近づく陽菜。流れてきた鮎を設置されたびくの中に入れている。


「へー、天然のうなぎもいるんだねぇ……」

 結衣ちゃんがじゅるりと舌なめずりする。さっきあれだけ鮎を食べたのにやっぱり結衣ちゃんは食いしん坊さんだよ。


 夏の楽しい一日が過ぎていった。

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