第三十一話 恋人の聖地で幸せの鐘を鳴らしました
かんな山での救出後、陽菜はいったん近くの診療所で診察を受けた。あたいの怪我治癒スキルもあり、身体に問題は無かったようだ。今は陸くんと一緒に警察の事情聴取を受けている。
あたいは駐在所の入口横にリードで繋がれ、現在待機中。カリカリご飯とお水を頂いているところだ。
時間は既に真夜中近く。晩秋の夜はもう寒い。二人とも未成年者ということもあり、保護者の到着を待って帰宅することになるらしい。今、陸くんと陽菜の家族が車でこちらに向かっている。
「ハ――ッ、いっぱいお目玉食らっちゃったね」
「そうだな。でもみんなに迷惑をかけたんだから仕方ないよ。江戸もん豆の店員さんにも後でお礼を言わないとな」
「うん……。陸もありがとうね。わがまま言った挙句、道に迷ったあたしを助けに来てくれて……」
「そんなの当たり前だよ。俺たち幼馴染だろ!」
事情聴取が終わったため、陸くんが警察官の方にお願いし、家族が到着するまでの間、歩いてすぐのところにある場所へ陽菜を連れて行くことになった。もちろんあたいも一緒だ。
◆◆◆
「ここは……?」
陽菜が戸惑い気味に問う。
陸くんが陽菜を連れて行った場所は近くにあるフェリー乗り場の駐車場だった。海側に近い場所に鐘のモニュメントがある。
「ここは恋人の聖地だよ。夕暮れ時にカップルであの鐘を鳴らすと永遠の恋が成就する……らしい」
陸くんは陽菜の顔をじっと見つめながら、そう説明した。
「ふふっ、今はもう真夜中だけどね」
クスッと笑いながら、陽菜が答える。
「本当は、今日の夕暮れ時に陽菜と一緒に来ようと思っていたんだ」
陸くんがいきなり切り出した。
「えっ、それって……」
陽菜は期待を込めた表情だ。
「俺はもう自分の気持ちを隠さない……。お、俺は陽菜と恋人同士になりたい! 今日のあの出来事(遭難)でお前が俺にとってどれだけ大切な存在なのかを実感したんだ‼」
ついに陸くんが自分の想いを陽菜に伝えた。
「……っ!」
陽菜は陸くんの告白に言葉が出ないようだ。ただボロボロと涙を流している。
「陽菜、返事を聞かせて欲しい」
陸くんが不安な表情で陽菜に問いかける。
「あたしは……あたしは陸が好き、昔から大好きなの! こんなあたしでよければ、これからも恋人としてよろしくお願いします……」
陽菜が嬉し泣きの表情でそう返事をした。
「ありがとう……陽菜」
陸くんが陽菜をそっと抱きしめる。しばらく二人は抱き合ったままだった。
◆◆◆
しばらく抱き合った後、陽菜が陸くんに提案した。
「じゃ、じゃあさ。せっかくだからあの鐘を二人で鳴らさない? 夕方じゃないから永遠の恋になるかどうかは分からないけど……」
「そうだな、そうしよう」
二人は恋人の聖地に移動し、モニュメントの鐘の紐を一緒に握る。そして真夜中なので遠慮がちに幸せの鐘を鳴らした。
カーン! 小さいけど二人のこれからの未来を祝福するかのような音だった。
☆☆☆
陸くん、陽菜、本当におめでとう! 結果として今回の遭難が二人の背中を後押ししたのは間違いないね。あたいは恋人としての最初の一歩を踏み出した二人を祝福するのだった。
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