第二十九話 陽菜が遭難しました その二

 登山口に着いたあたいと陸くんはすぐにかんな山を上り始める。目指すは朽ちた木の看板が落ちていた岐路だ。


 既に夕刻を過ぎているせいか、途中で出会う登山客は誰もいない。途中、陸くんがスマホでお母さんに連絡を入れた。


「陽菜が行方不明なんだ……今、かんな山の登山道を捜している!」

 陸くんが少し錯乱した声で事実を伝える。


「そんな……。陸、まずは落ち着きなさい!」

 お母さんの驚いた声がスマホから響いた。


「途中で迷った可能性がある岐路へ向かっているんだ」

「分かったわ。(陽菜)ママには私から伝える。だからあなたは何としても陽菜ちゃんを無事に連れて帰ってきて‼」


「もちろん。必ず陽菜を連れて帰るよ!」

「あなたも気を付けるのよ。私からも警察には連絡しておくわ!」


 あたりは既に日が沈み、黄昏時たそがれどき。この後本格的な夜が訪れる。そうなったら陽菜の捜索は絶望的だ。

 

 岐路まではかなり距離があったはずだが、陸くんとあたいは必死に上り続け、ようやく現場へ到着。落ちていた木の看板を陸くんが拾う。


『この先、危険!』

 懐中電灯に照らされた看板には消えかかった文字でそう書かれていた。


 やっぱり……陽菜は使われていない石切の作業道に迷い込んだようだ。


 あたいは犬本来の嗅覚で陽菜の匂いを追跡することにした。作業道の道沿いに陽菜の匂いがかすかに残っている。


「もも、頼んだぞ!」

 陸くんはあたいがクンクンしながら道沿いに進むのを見て、あたいに声をかける。


 あたいは自分が持っている全てのスキルを使うことを決意した。万が一あたいの正体がバレたとしても、今ここで陽菜をうしなうことに比べれば大したことではない。


「アォーーン(誰か聞こえますか!)」

 動物会話スキルで近くにいる動物たちに呼びかける。


 近くにいた一羽のフクロウが応じた。

「ホーホー(ここは崖の近くで危ないよ!)」


「人間の女の子を捜しているの。何か知っている?」


「ホォー(そういえば、あっちの崖の方に歩いていく女の子がいたよ)」

 フクロウは首をかしげながら答えた。


「ワォン(ありがとう!)」

 あたいはフクロウにお礼を言い、そのまま道を進んでいった。


◆◆◆

 

 使われていない石切の作業道を進んでいくと、だんだん草むらが深くなっていく。


 さっきからあたいの危険察知スキルが警報音を鳴らし続けている。このまま進むとおそらく断崖絶壁に出るはずだ。あたいは注意しながら慎重に進んでいく。


 突然草むらが切れ、目の前が月明りで明るくなった。


 あと一歩進むと、崖から落ちる! あたいは急停止して後方の陸くんに注意を促した。


 陸くんが慌てて懐中電灯で周囲を照らす。先の道が切れている……やはり目の前は断崖絶壁だったのだ。


 もしここから落ちたとしたら、おそらく陽菜は助からないだろう……。





 

 そして最悪の事態が……






 それはあたいの目の前に落ちていた……






 そう、陽菜が履いていたピンクのトレッキングシューズが片方だけ……






「ひ、陽菜……」

 陸くんはショックでその場にうずくまってしまった。



 そんな……こんな結末ってないよ……。あたいは陽菜をうしなった事実に絶望した。

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