第二十二話 緑の丘どどーんと祭り その一
季節は秋。食欲の秋。あたいの体重も少し増加傾向……。まずい、まずい。もっと散歩しないとね。
ところでこの時期、緑の丘では毎年『緑の丘どどーんと祭り』が開かれている。要は地元のお祭りなのだが、商工業や農業の紹介目的にブース出店し、製品や商品の販売が行われるのだ。
今回は陽菜ママのお店が出店するため、陽菜と陸くんもお手伝いするらしい。ちなみにあたいはお店の看板犬になる予定だ。
前日からお店の出店準備のために陸くんたちが駆り出されているので、今日のあたいの散歩当番は妹の結衣ちゃんだった。
結衣ちゃんと一緒に巻き尾をフリフリさせながら、あたいは上機嫌で散歩する。この時期は晴れた日が続くので、あんよも汚れないしね。
しばらく歩き、散歩コースの途中にあるヒメ神社へと到着。いつも通りあたいがお参りしていると、拝殿からヒメ神様が出てこられた。
「ヒメ神様、こんにちは」
『おぉ、ももか。お主もすっかり大きくなったな』
「いえいえ、あたいは全然太っていませんよ」
『?? お主はそんなに太っているのか?』
どうやらお互いに認識の
『ところでももよ、明日から緑の丘でお祭りがあるらしいの』
ヒメ神様は地元のイベント関係もきちんとチェックされているらしい。
「はい、明日からのどどーんと祭りですね。あたい、陽菜ママのお店の看板犬をやるんですよ」
『ふむ、頑張るのじゃぞ。ところで……お主は玄右衛門鍋を知っているかの?』
「玄右衛門鍋ですか……はい、知ってますよ。地元の有名な豚汁ですね」
緑の丘には昔々真川を開削した偉人の名にちなみ、玄右衛門鍋という豚汁がある。これにはもちぶた
まぁ、しょっぱいのが食べられないあたいには関係ないのだけれど。
『うむ、実はの、あれを一度食べてみたいのじゃ』
「ええっ、ヒメ神様が召し上がるのですか?」
『あの炙ったもちぶたのチャーシューがうまそうでの。是非一度食べてみたい』
「でも……ヒメ神様には実体が無いですよね」
『そう、そこで陸の妹である結衣の身体を一時的に利用させてもらうことにした』
ヒメ神様はそう言うと、結衣ちゃんの身体に自身の霊体をピッタリ合わせた。一瞬あたりが光輝く。高位の霊的エネルギーなので普通の人には
「どうじゃ、もも。結衣の身体に影響が出ない時間内であれば、こうしてわらわの霊体でも
ヒメ神様が結衣ちゃんの声でしゃべっている‼
「ヒメ神様……、あまり結衣ちゃんの身体で遊ばないでくださいね!」
「わかった、わかった」
あたいはヒメ神様に一応お願いしておいた。
◆◆◆
そして緑の丘どどーんと祭り当日。朝から直径二メートルの大鍋で作られる玄右衛門鍋で仕込まれた豚汁の販売が行われている。隣ではもちぶたチャーシューを
すごく長い行列なのだが、陸くんは陽菜の分も合わせて購入し、お店の横のベンチで二人並んで座り、豚汁を食べている。
「これ、ほんとおいしいよね」
「うん、もちぶた炙りチャーシューもトロトロで凄くうまいな」
おいしいものを一緒に食べるのも二人の仲を進展させるきっかけになるね。あたいが二人の足元でおとなしくお座りしていると、遠くからこちらへ走ってくる結衣ちゃんが見えた。
「やばい、遅刻した。おにいと陽菜ちゃんたちにも先を越されちゃったよ。私も早く豚汁を買わないと……」
結衣ちゃんが行列に並ぶのと同時に、どうやらヒメ神様が結衣ちゃんの身体に
「結衣よ、感謝する。お主のおかげで豚汁が食べられる!」
豚汁購入には当然お金が必要なので、昨日のうちに結衣ちゃんのポシェットへご自身の神社のお賽銭を少し隠しておいたらしい。なかなか用意周到だわ。
「ふむ、これで足りるかの。――ではさっそく頂くとしよう」
結衣ちゃん(=ヒメ神様)は購入した豚汁をおいしそうに食べている。神様にも愛される豚汁かぁ……作っている人が聞いたらビックリするだろうね。
「ふー、おいしかった。わらわは大満足じゃ!」
ヒメ神様は豚汁を食べ終えると、結衣ちゃんの身体から離脱していった。
◆◆◆
「これこれ、このもちぶた炙りチャーシューがうまいんだよね!」
その後、結衣ちゃんがおいしそうに(二杯目の)豚汁を食べていると、お母さんが声をかけてきた。
「ちょっと結衣、あんた豚汁二杯目よ!」
「ええっ! 私そんなに食べた記憶がないんだけど……」
うん、そうだね。最初の一杯を食べたのはヒメ神様だもの。あたいはこってり系の豚汁を二杯食べた結衣ちゃんの体重を心配するのだった。
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