第二十三話 緑の丘どどーんと祭り その二
朝一の玄右衛門鍋(もちぶた炙りチャーシュー乗せ豚汁)の振る舞いに続き、いよいよ緑の丘どどーんと祭りの主目的であるブース販売が開始され、続々とお客さんがやって来る。
あちこちのブースで地元の農産品や商工製品・商品などが販売されている。
そんな中、あたいはメイド服を模した衣装を無理やり着せられ、まるでメイド柴だ。
「クーン(しょんぼり……)」
「もも、凄く似合ってるよ!」
あたいのモチベーションがダダ下がりしているのを見て、陸くんがあたいの服を褒めてくれた。
「ワフッ(そうなの?)」
単純だけど、あたい、やる気が出てきたみたい。陸くんと一緒に頑張るぞー!
今回お店のスペースが限られているため、大物の展示は無く、アンティークな小物や洋服を取り揃えている。
まずはあたいがブースの前にちょこんと座り、ニコッと笑顔(にこっと笑って舌を出す)で愛想を振りまく。
「あらっ、可愛いメイト服を着た柴ちゃんね」
通りすがりの家族連れがあたいをなでなでしてくれる。
「はい、こちらはカントリー雑貨のお店ですよ~」
すかさず陽菜がアンティークなメイド服を着て呼び込み。
そして最後に執事服を着た陸くんが恥ずかしそうにお客様をご案内。
これぞ三位一体のキャッチセールス。(良い子は真似しちゃダメよ)
相変わらずお店の商品はがらくたに見えるけど、お客さんは喜んで買っていく。ほんと、不思議だよね。
「こちらのお店もカントリーグッズですわよ!」
その時、隣のブースからも声がかかる。どうやら隣もカントリー雑貨のお店のようだ。こちらはカントリーロリータなメイド服の店員たちが呼び込みをしている。おまけにコーギー犬の看板犬もいる。
「ちょっと! うちのお客さんを横から奪わないでよ」
「おほほ、何をおっしゃっているのか分かりませんわ。そちらのお店に魅力が無いからじゃないかしら?」
陽菜ママが相手に抗議するが、
「こうなったら勝負よ! この二日間でどちらがお客さんを集客できたのかで勝敗を決するの!」
「良いですわ。まぁ、私たちの勝ちに決まっていますけど。オッホッホ」
「きーっ、陽菜、陸くん、ももちゃん! 絶対あいつらに負けちゃ駄目だからね‼」
陽菜ママは意地でも負けたくないみたい。
「えーっ、ママ、こんな不毛な勝負やめようよ」
陽菜が冷静になるよう
女の闘いは怖い……あたいはつくづくそう思った。
☆☆☆
「カントリー雑貨対決か⋯⋯。うん、面白いんじゃないかな。二つのお店で競ってもらって話題集めにしょう」
祭りの実行委員会は、話題作りとして問題ないという大人の判断になったみたい。
カントリーロリータな服を着たコーギー犬が愛想を振りまくと、若い女性たちが大勢相手方のブースに集まった。
あたいも何かパフォーマンスしないと⋯⋯。そこでひらめいたのがヒメ神社のお参りポーズ。
あたいはお座り姿勢になり、まずは二回頭を下げ、それから両方の前足を上げ、出来るだけ揃えるポーズを取りながら二回足元の石畳に向けて両足をゆっくり振り下ろし、肉球でポンポンと叩く。
最後にもう一度頭を下げてお参り終了。
「ももちゃんがいつものお参りポーズしてるよ!」
ちびっこ連れのお母さんたちが集まってきた。あたいのお参りポーズはここ緑の丘ではそこそこ有名なのだ。
後は陽菜と陸くんの頑張り次第かしら⋯⋯。
初日の売上は両店ともほぼ互角で、勝敗は明日に持ち越しとなった。
◆◆◆
翌日、どどーんと祭りの二日目。
陽菜ママのお店が開店。あたいはさっそくとっておきの犬ダンスを披露。
「アフゥ(犬ダンス開始!)」
お客さんの目の前であたいは後ろ足だけで立ち、そのままよちよち歩きでフラフラ右に左に歩き始めた。メイド服を着たあたいがダンスを踊る姿を見て、お客さんは拍手
対するロリータメイド服を着せられたコーギーちゃんもチンチンで対抗。こちらにもお客さんから歓声が上がった。
犬同士のパフォーマンス対決見たさに、お客さんたちがブース前に大勢集まり、結果的に両店とも繁盛した。
二日間にわたる勝負の結果は、陽菜ママのお店がわずかに勝利。途中から看板犬のパフォーマンス対決にすり替わった気もするのだけれど、まぁお祭りだからいいのかな。
「ふっ、なかなかやりますわね」
「あなたこそ」
相手と陽菜ママの間にも
「「もも、お疲れ様!」」
陽菜と陸くんがあたいをねぎらってくれた。やれやれ、これであたいもようやく看板犬のお勤めから解放されるよ。
あたいは相手のコーギーちゃんにも「お疲れ様」と声がけした。
◆◆◆
その晩あたいが寝始めると、ピコーンという音とメッセージが響く。
「おめでとうございます! あなたの善行レベルが一つ上がりました。さらにスキルに透明化が追加されます」
透明化……まさに言葉通りのスキルだわ。二日間の激闘(?)で疲れ切ったあたいはそのままスヤスヤと眠りについた。
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