第九話 【side陽菜】幼馴染はにゃんこに語る
週末、我が家は新田ファミリーと一緒に夕食を共にしていた。先日の高原でのカントリーフェスタで、ももに看板犬になってもらったお礼ということで招待したのだ。当然、私の幼馴染の陸もいる。
今日はお店の二階で両家揃っての夕食だ。
ママと陸のお母さんは学生時代からの親友だけど、陸と疎遠になってからは本当に久しぶり。今二人は台所で仲良く調理中だ。パパと陸のお父さんは二人でワイワイお酒を酌み交わしているところ。
あたしと陸、それに陸の妹の結衣ちゃんは柴犬のももと一緒にボールで遊んでいる。
「ももちゃん、久しぶり~~♪」
調理を終えたママが、ももにすりすりするが、何か嫌がってるっぽい?
陸が飼っている柴犬のももはヒメ神社でのお参りポーズで一躍有名になった。道を歩いていても「ももちゃ~~ん」とみんなから声を掛けられることが多くなり、ここ緑の丘では今や街の人気犬だった。
ところで、あたしは最近少し疑問に思っていることがある。それはももが人間の言葉が分かっているのではないか、ということだ。正直自分でも馬鹿な考えだとは思っているが、他の犬と比べても、ももにはおかしな行動が多い。
普通お参りする犬なんているかしら? いや、無理無理無理、他の犬には絶対無理‼ ただそうは言っても今のところ確証はない。
でも、ももの行動には何かある種の理由がある気がする。それが何なのかは今のあたしには全然分からないけど。
◆◆◆
「ニャ~ン」
新田家が帰った後、自室の窓の外からいつもの鳴き声が聞こえてくる。
にゃんこの名前はフク(と勝手にあたしが名前をつけた)。いつもうちに餌をもらいにくるオスの野良猫だ。窓を開けると飛び込んできて、今日もウニャーンとすりすりしてくる。
フクが大好きなキャットフードを入れたボウルを置くと、おいしそうに食べ始める。
「フク、お前はあたしの言葉が分かる?」
夢中になってご飯を食べるフクにあたしは話しかけた。
「ウニャ?」
「だよね、分かるわけないか……」
あたしはスマホの画面に表示された陸の隠し撮り写真を見ながら、フクに向かって話しかける。
「あたしは幼馴染の陸が好き。疎遠になってからもずーっと好き」
「ニャニャッ。ムシャムシャムシャ……」
「でもあたしからは絶対に言わないって誓ったんだ。陸の重荷になりたくないから……」
以前、陸の友達たちに二人で一緒にいるところをからかわれた。陸は意地になって「陽菜とは別に何でもない」って反論したけど、陸のことが好きだったあたしにはとてもショックだった。それ以来、陸とは疎遠な状態が続いていた。そう、この夏までは……。
そんな関係を見直すきっかけは一匹の柴犬との出会いだった。陸の家で飼われることになった黒毛の柴犬”もも”。あたしはももに会うことを口実に陸への再接近を図ったのだ。
散歩にも一緒に行こうとしたし、もものお参りにも積極的に付き添った。この間の高原でのお昼も陸と一緒にいられるのが嬉しくて、食事が喉を通らないぐらいだった。
あたしたちは来年いよいよ中学生になる。
これから陸はもっともっと格好良くなって、あたし以外の誰かと恋人同士になってしまうかもしれない。
あたしにはそんなの耐えられない!
でも……あたしは彼に好きだとは言わない。いや、言えない。
今はまだこの微妙な関係を続けていく。あたしが覚悟を決められる”その時”までは……。
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