第八話 柴犬のお参りが話題になりました

 ヒメ神様と約束した翌日から、あたいは陸くんや妹の結衣ちゃんとの散歩のつど、ヒメ神様の神社にお参りするようになった。


 境内の拝殿はいでんの前に来ると、あたいはいつも通りお座り姿勢になり、まずは二回頭を下げ、それから両方の前足を上げ、出来るだけ揃えるポーズを取りながら二回足元の石畳に向けて両足をゆっくり振り下ろし、肉球でポンポンと叩く。最後にもう一度頭を下げてお参り終了。


 最初は驚いていた陸くんや妹の結衣ちゃん、それに幼馴染の陽菜も今では見慣れてきたのか、あたいと一緒にお参りしてくれるようになっていた。


 しばらくは新田家と陽菜だけの秘密だったが、当然いつか誰かが知ることになる。


◆◆◆


 その日も変わらず、あたいは境内でいつものお参りポーズ。


「すごい柴犬だ! またお参りしているぞ」

 その時、後ろから誰かが声をかけてきた。


「氏子総代との会合じゃったが、最近珍しい柴犬がいると噂になっていたんじゃ!」

 普段あまり見かけない宮司ぐうじさんが叫んでいた。


「まるでお百度参りのようだの」

 氏子のおじいちゃんも感心しているみたい。


「こりゃあ、この子犬のようにもっと信仰心を持てという、ヒメ神様からのお告げじゃなかろうか」

 今度は氏子のおばあちゃんがあたいを見ながらつぶやく。


 おばあちゃん、それ、大正解‼︎


 その後、神主さんや氏子さんたちを巻き込み、あたいのお参りは緑の丘地区限定でそこそこ話題となり、噂を聞きつけた地元の新聞社が記事にしたいとさっそく取材を申し入れてきたらしい。


 そして今日はいよいよ陸くんが取材される日。陸くんのお母さんと妹の結衣ちゃんが見守る中、質問に答える陸くん。


 ちなみにあたいは陸くんに抱っこされながら、丸い筒が伸びたものでパシャパシャされている。ヒメ神様をアピールするため、あたいはニコーッと愛想笑あいそわらいを振りまく。


「初めまして。ちーき新聞の尾崎です。それじゃあ、お話を聞かせてもらえるかな」

 若い男の人が陸くんに話しかける。


「え、ええと、実はもも⋯⋯うちの柴犬と散歩していたら、急にももがぐいぐい引っ張って、この神社の境内に⋯⋯」

 陸くんがおおよその経緯を説明してくれる。


 尾崎さんはふむふむとうなずき、何かを紙にスラスラしている。

「なるほど⋯⋯牛に引かれて善光寺参りって言葉があるけど、今回はももに引かれてヒメ神社参りって訳だね! うん、とっても興味深い話だよ」


 笑顔を見せる尾崎さんの話を聞いて、陸くんも嬉しそうな表情を見せた。最後にあたいのお参りポーズをパシャパシャして取材終了。


 後日あたいの記事がちーき新聞に載ったとお母さんが陸くんに言っていた。あたいのお参りポーズもちゃんと載ってたらしい。


 ヒメ神様の話では、ちーき新聞の記事とあたいのお参りポーズで、緑の丘だけでなく、周辺の街でも地元の由緒ある神社として見直そうっていう機運が高まったようだ。


◆◆◆


 そこからはあれよあれよという間に人気が出て、今では御朱印や御守り(なぜかペットのおまもりも)が売れてるみたい。


 さらに有志による境内の清掃活動も始まり、子どもたちの遊び場だけでなく、大人たちにとっても居心地の良い場所に変わってきたらしい。


『ももよ、お主の活躍でわらわも大変助かったのじゃ』

 ヒメ神様があたいの頭をなでなでしながらめてくれた。


『皆が参拝してくれたことで、土地神としての力をある程度回復することが出来た』


「で、では、ヒメ神様のお力で陸くんと陽菜の二人を復縁させてくださいませ」


『そうじゃな。ところでももよ、お主は神通力じんずうりきを知っているか?』

「ええっと、喧嘩けんかした二人が仲直り出来る力?」


 あたいにはよく分からないが、きっとすごい力なのだろう。


『ちょっと違うな。例えばあの二人の前にいくつか分かれ道があったとしよう。各々おのおのの選択によって将来二人の道が一緒になることもあれば、逆に離れていくこともある。わらわの神通力は離れていった二人がまた一緒の道で出会えるように強制力を働かせることができるのじゃ』


「ふへぇー、そんなお力があるなんてヒメ神様はやっぱりすごい方なのです‼」


『いやいやそれほどでも⋯⋯そんなわけで神通力は人の運命に大きく影響するのじゃ。仮に二人が離れ離れになったとしても二人の想いが続く限り、強制力は継続的に発動する。じゃが、お主の飼い主の陸はともかく、幼馴染の陽菜の気持ちはどうなのじゃ?』


「うーん、陽菜の気持ちはあたいも直接聞いたことがないのですが……」

『わらわが神通力を使う前に確認すべきじゃぞ。せっかくの神通力も片方の想いだけでは全く効果が無いのじゃ』


 たしかにヒメ神様がおっしゃることはごもっともだ。あたいはうなずく。


『とはいえ、まだ力が完全に戻らぬわらわが本格的に神通力を使うには少々時間がかかる。ももよ、その間に陽菜の気持ちを確認してくるのじゃ』

「はい! あたい、頑張って陽菜の気持ちを確認してきますね‼」


 あたいはヒメ神様にお礼を言い、(何も知らない)陸くんとその場を離れた。


◆◆◆


 その晩、カリカリご飯を完食してあたいが寝床に入ると、いつものピコーン音が。


「おめでとうございます! あなたの善行レベルが二つ上がりました。さらにスキルにが追加されます」


 やった! いきなり二つも上がるなんてやっぱり神様のお願いを叶えたからかな。


 そして今度は動物会話スキル……。散歩の時に会うもふもふ相手に役立つかなぁ。


 あたいは次の散歩で試してみようと思いつつ、スヤスヤ眠りについた。

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