第四話 疎遠だった幼馴染への秘めたる想いを聞きました
大和田
最近はあたしと陸の近所探検に、陽菜が一緒に付いてくることも多い。あたいにとっては、大事な陸くんに迫ってくる危険な女の子なのだが、陸くんはそれにまだ気づいていないようにも見える。
「ピンポーン!」
新田家に訪問を告げるチャイムが鳴る。直接玄関の呼び鈴を鳴らしているので、配達の人ではないみたい。
あたいは廊下でボール遊びしていたので、そのまま自宅警備犬として待機。もし悪い人が来たら、お母さんを守るためにあたいが何とかしなくちゃ!
「ハーイ、あら、陽菜ちゃんじゃない。うちに来るのはずいぶん久しぶりよね」
新田(お母さん)が玄関を開けて相手に声をかける。
「えぇっと、おばさん、お久しぶりです。今日はももちゃんと遊ぼうと思って……」
陽菜がモジモジしながら返事をする。
「そうなの。りーくー! 陽菜ちゃん来てるわよ」
「おぅ」
陸くんが恥ずかしそうに自分の部屋から出てきた。
「陸、こんにちはっ! 今日も、ももちゃんと遊ばせて!」
陽菜はにこっと笑いながら、陸にお願いポーズする。
「いいけど……ももが怖がるかもしれないぞ」
「大丈夫、大丈夫。あたしたち、もうすっかり仲良しなんだから‼」
そう言いながら、陽菜は廊下にいたあたいを捕まえるとぎゅーっと抱きしめてくる。
うー、やっぱりあたいはこの女の子が苦手だ。あたいをネタに陸くんへ近づいてくるのも図々しいと思っている。
「ウー、ワンワン(お前はさっさと帰れ!!)」
低くうなるように吠えたが、陽菜には完全に無視されてしまった……。く、悔しい。こうして今日も陽菜にもふもふ攻撃されてしまう、あたいであった。
その日の夜、お母さんからあたいがカリカリご飯をもらって夢中で食べていると、お母さんが陸くんに話しかけてきた。最近はあたいの人語理解スキルも上がってきたせいか、だいぶ単語を理解出来るようになってきたんだ、えっへん。
「そういえば陽菜ちゃんとあんたが一緒にいるの、ずいぶん久しぶりよね。最近はお互い距離がある感じだったけど……。どうしてまた仲良しになったの?」
「うーん、そういえばそうだな⋯⋯でも陽菜はももがちっちゃくて可愛いから会いに来てるだけだと思うよ」
陸くんが
「あんたも来年は”ちゅーがくせい”なんだから、そろそろ彼女の一人ぐらいいてもおかしくないよね。うん、陽菜ちゃんなんてどうかな?」
「どうかなって、陽菜はただの
歯切れの悪そうな声で、陸くんはお母さんに答える。
「そうぉ、私は将来陽菜ちゃんがうちにきてくれたら嬉しいけどね」
陽菜の母親とお母さんは昔からの友達らしい。
「幼馴染は”こいびと”にならないって言うけどね」
「そうかしら。”すき”あった仲ならば、いっしょに乗り越えられそうだけど……」
「はいはい。この話はもうおしまい、おしまい!!」
陸くんはお母さんとの話を打ち切ると、ご飯を食べ終わったあたいを抱っこして自室へと帰っていった。
パタンとドアを閉めると、陸くんが真剣な表情で抱っこしたあたいの目をじーっと見つめながらつぶやく。
「もも……俺、実は陽菜のことが昔から”すき”だったんだ。でも一緒にいるところを俺の友達たちにからかわれて……、それで陽菜に声をかけられなくなった。陽菜もそんな俺に遠慮して話しかけてこなくなり、結局そのまま疎遠になってしまったんだよ……」
「ワフッ(陸くんは陽菜がすきなんだ⋯⋯)」
「このままだといつか別の男に先を越されて、陽菜が遠くに行ってしまうかもしれない。でも俺にはまだ陽菜に”こくはく”できる勇気も自信もないんだ。だから陽菜がももに会いに来てくれるの、本当は嬉しくて仕方ないんだ……」
「クゥン(元気出してね)」
あたいが目の前の陸くんの顔をペロペロ舐め始めると、陸くんはくすぐったそうな表情をしながらも、少しだけ元気になってくれたみたいだった。
相手の言葉は分かるのに、あたいの気持ちが言葉で伝えられないのが正直もどかしい。喜怒哀楽の感情表現に利用可能な巻き尾の尻尾も、まだきつく巻かれ、ピタッと体についたままだ。
◆◆◆
寝床に入ってから、あたいは今日のことを振り返ってみた。
陸くんは新入りのあたい相手ならば自分の気持ちを素直に打ち明けられるみたい。家族の一員としてそれはとっても嬉しいな。
あたいから見れば、陽菜はもふもふ好きでぎゅーっと抱きしめてくる危険な女の子だけど、それでも陸くんが”すき”な相手ならば、あたいも少しは仲良くしてあげないとダメかもしれない。
あっ、でも”すき”っていうのはどんな気持ちなのかな? あたいが陸くんと一緒に散歩へ行ったり、ご飯を食べたりしたいと思うことと同じかな?
”すき”……幼犬のあたいには今はまだよく分かんない気持ち。きっと善行を積んだら分かる日が来るんだろうか。
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