第11話 真意②
1556年、桶狭間の戦いの4年前、その機会は訪れる。
義元は、三河守護吉良義昭と尾張守護斯波義銀との会見を設け、吉良義昭の後見として義元自身が出席することにした。当然、信長は斯波義銀の護衛として出席した。斯波氏を擁立し、尾張を実質的に支配しているのは自分であると、内外に示すためである。
三河の上野原で会見は始まった。両守護大名は、物々しく護衛の軍を引き連れ、一町(約150m)の距離を開けて向かい合った。
義元は吉良義昭の後ろで、御輿に乗ったまま、織田軍の様子を伺った。
まず、目に飛び込んできたのは、異様に長い槍であった。当時の槍は二間半(約4.5m)の長さが主流であったが、信長の長槍は三間半(約6.4m)あった。槍は長いほど有利ではあるが、これほどの長さを使いこなすには相当の訓練が必要なはずである。
鉄砲の数も多かった。かねてより、熱田を中心とした伊勢湾商業圏を有していた織田家の、裕福な財政事情が計り知れた。また、兵の1人1人が百戦錬磨の雰囲気を帯びていた。事実、信長の馬廻り(親衛隊)は、数々の戦を潜り抜け、相当な熟練度だった。それらの兵が隙のない陣形を取っている。
そして、斯波義銀の後ろで、1人馬上のまま、まっすぐにこちらを見据える男こそ、織田信長に違いなかった。
その姿を見ると、義元の背中は凍り付いた。
『よもや、尾張にこれ程の男が現れようとは…』
織田軍もさることながら、それを率いる信長の威勢は、遠くからでもはっきり感じ取れた。
義元の危機感は相当なものだった。尾張と言う国は京都に近く、天下統一には有利と言えた。信長が力をつけ京都を制圧し、足利将軍を擁立すれば、一気に天下人へ駆け上るかもしれない。
自分が生きている間に、天下統一、もしくはその礎を盤石にしておきたかったが、信長がその最大の障壁になると直感した。仮に、信長を生かしたまま、この世をされば、息子の氏真は到底太刀打ちできないだろうと考えた。器が違いすぎる。
『余の目が黒いうちに消さねばならん。天下を頂くのは、この今川か、あの男…』
そして、義元は信長の抹殺を決意するのだった。
さて、会見の方はというと、両守護が遠くから暫くにらみ合っただけで、何の話もしないまま終了した。もともと大した用もなく設けられた会見である。両者の席次が決まらないという理由だけで、そのままお開きとなった。
信長は、じっと今川軍を見据えていたが、踵を返すと、馬廻衆に向けて言った。
「あの輿をよく覚えておけ!」
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