第44話 大事なもの

とりあえずエメラダはほって置いていいだろう。レベル100でレベル30の魔物を相手する事なんてたいした問題にはならないだろう。

ユリシアをしっかり見ないと危ないからね。

それにしてもよくよく見ると私たちもしかして結構バランスの取れたPTだったりする?

前衛タンクのエメラダ後衛アーチャーのユリシア中衛万能型の私…

適当に組んだPTだけど意外と様になってるのかもしれない。最初は強さレベルがバラバラのいびつなPTだと思ったけどこれは訓練すれば…

と、思案にふけっているとユリシアの矢を受けダメージを負いながらも激昂したレッサーワイバーンがこちらに向かってきた。3匹…ゴブリンみたいに武器を振り回すだけで倒せるほど弱くは無いので集団で来ると中々辛い…いあ正確には私がここをソロで来るなら10匹相手でも問題ない。自分が有利なように逃げ回りながら敵の配置を操りしとめる…そういうことが出来るからソロなら問題ない。だが今はユリシアのタイミングで敵がこちらに向かってくるのだ。それをユリシアの前の範囲だけという限定した行動範囲で攻撃を回避しなければならない。下手に自由に動き回ればユリシアのほうに敵が流れてユリシアが死にかねない。これがソロで戦うよりも困難になる理由だ。

などと言い訳して見てもやるしかないので私はピコハンアックスを構えた。若干冷や汗をかきながら軽くひざを曲げどの方向にも飛び出せるようにした。

そしてユリシアめがけて来る攻撃に私は…


「フレイムアロー!フレイムアロー!フレイムアロー!」

ズシャーン!

横で悪魔妖精こと運営さんがずっこけていた。

「なにやってんの?そんなところで寝てられると邪魔なんだけど…」

まだ秋じゃないですよ?食欲の秋、睡眠の秋にはまだ早いですよ?

まったく困った妖精である。

「なにやってんのはこっちのセリフですよ!今までの前フリはなんだったんですか!限定されたミッションで最低限の動きで立ち回りすごテクを見せ付けるシーンでしょ…今のは!何で魔法スキルで焼き払ってるんですか!」

はぁ…これだから素人は…

「そっちこそなに言ってんの…それくらい非常に難しいミッションになるんだからユリシアの命がかかってるから魔法で瞬殺しても仕方ないよね?っていう前フリじゃないの!常識でしょ?

だいたい緊急時でもないのに人様のお子様を預かってるのにわざわざ死ぬ可能性が1パーセントでもあることをするわけ無いじゃない。」

「君って人は…自分の時は頭おかしいんじゃないのって言う事も平気でするくせに他人には甘々なんですね。」

何を言う。私は他人には甘くは無い。無関心に命だって奪えるさ。

「他人(ゴミ)と仲間(大事なもの)を同列に語らないでもらえるかな。」

確かにエメラダの時は自分で考えて自分で判断して仲間に入れたのに対し、ユリシアは押しかけ女房のような感じに勝手についてこられた感は否めないがそれでも、ここ数日の向けられる好意、羨望、崇拝、親愛、その他いろいろなそういった感情を向けられて悪い気はしないしそれを大切に思えないほど私は人間が腐ってはいない。これをただのいい手ごまだと思って利用するような人間には私はなりたくは無い。

「まぁわかりましたよ。君にもそんな感情があった事は驚きですがいい事なのでこれ以上は何も言いませんよ…ですが過保護になり過ぎないように気をつけてくださいね」

まったく悪魔妖精は人を何だと思っていたのか…私にだって感情の一つや二つありますよ。それにこれ以上は何も言わないと言いながら最後に説教を加えてくるこの性格の悪さ…

ホント嫌なやつである。

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