第28話 破滅の足音
外に出ると既にゴブリンに町が囲まれていた…なんて事はなかった。
まだ静かである。
見回してみると馬から転げ落ちるように降りた男が息を切らしながら報告をしていた。
「はぁ…はぁ…たいへんだ…ゴブリンが…500匹以上この先5キロのところにいた…進行スピードから言って今はもう3キロくらいだろうか…時間が無い…町から逃げろ!」
「そんな町を捨てるなんて…」
「でもだったらどうするって言うんだ!戦うってのか?こっちも最低でも500人の戦士を用意しなきゃ時間稼ぎにもならないぞ。こんな時間にあと、30分で戦闘準備できるか?」
「それこそ無理だ!」
「もうおしまいだ…」
「ちくしょぉぉ…せっかく自分の店が持てて軌道に乗ってきたってのに…」
「やっぱりあの嬢ちゃんがオーガを持ってきたときに警戒してちゃんと町の強化をしてれば良かったんだ。どこの町から来たかは知らないがそう遠くは無い場所であんな魔物が発生していたんだからここももっと警戒すべきだったんだ。」
だいぶ混乱してきているようである。
最後に至ってはまるで見当はずれな話である…私のオーガとゴブリンはまったく関係ありません。
勝手に私のオーガを破滅の序章にしないでもらいたい…
そう言えば魔物が人里に出てくるなんてほとんど無いって運営いってなかったけ?
「そうですね…『ほとんど』ないですね。」
そう…ごく稀にはあるって事ね…めんどくさい言い回しである。
さて、レベル25とこの装備…普通だとさすがに500匹のゴブリンを相手するのは自殺行為である。
だが私は普通か?普通の人間が無課金で課金プレイヤーを倒せるか?
否である。
それでは私が私であるってところを見せてあげよう。
そして私はみんなが逃げる方向とは反対の街の出口に向かった…
「あ…」
そこにはロングソードを携えた男が立っていた。そう…グレンである。
まったく…この男は…
「どこへ行くつもり…」
「よう…お嬢さんか…この前は高だか十数人程度に無様に死に掛けたが、これでも俺はこの町で最強を自負している。だから、今度こそ死地とわかっていても逃げるわけには行かないんだ…」
どこの勇者だよこいつは…もうお前が主人公やれよ…
「ホント馬鹿ね…」
「ふ…じゃーな…ちゃんとお嬢さんは逃げるんだぞ…」
そう言うとグレンは背中を向け歩き出した。
「待ちなさい…」
そう言うと私はグレンに向かって剣を投げた。
剣は放物線を描きグレンはそれを右手でキャッチした。
「これは…いったい…」
「あなたにふさわしい武器よ。必ず生きて帰りなさい。」
グレンにふさわしい武器…それは…
適正レベル1
エクスカリバー(レプリカ)
攻撃255
魔力20
オリハルコン製の剣
見た目は同じだがレプリカであるために神の祝福を受けていない。
本物と同じくヒーリング効果もあるが攻撃力は遠く及ばない。
初心者にも扱える仕様なのでこれで今日から君も勇者だ。
と言う説明書きの武器である。
もちろん課金の武器で家具の外れガチャである。
「この輝き…まさか…オリハルコン…そんな馬鹿な…」
「…」
私は何も答えず背中を向けもうひとつの出口に向かった。
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