レモン・ハラスメント
Scene.076
レモン・ハラスメント
私は、彼女が嫌いだった。悪い人間ではないのだ。しかし、彼女の行う小さな親切を私はどうしても許容することができなかった。彼女という人間は、大皿に盛られた唐揚げに、否、唐揚げ全てに――同席者の了解を得ずに――レモンを絞る。私はプレーンな唐揚げが好きだ。何より好きだ。カラッと揚がった熱々の、噛めば肉汁溢れる唐揚げ。それそのものが至高なのだ。
それなのに彼女という人間は……、彼女という咎人は、無粋にレモンを絞る。本来、その領域は自由であるべきだ。その自由は誰しもに保証されるべきであり、唐揚げにレモンをかけるか否かの自由は個人のものであるべきなのに……。
レモンを絞り始めてから彼女は宣言する。
「レモンかけるねー」
貴様、もうかかっているではないか!
しかし、私という人間は、口をつぐみ、その光景を見つめることしかできない。
私は、そんな自分の弱さが、彼女以上に嫌いだ。
これにて、了。
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