クリアレイン

Scene.070

 クリアレイン


 昨晩から降り続く雨。今朝になっても屋根を叩く雨音が小さくなることも、窓に映る街並みを歪めて流れる水滴が止まることもない。時計の長針がどれだけ進んでも、今、この世界は雨に包まれている。

 雨の日は憂鬱だ。しかし、止まない雨はない、と人は言う。

 けれど、もし、このまま、この雨がずっと続いて、何もかも洗い流してくれたら。窓の汚れも、厭なことも、この街も、今の自分も、自らの罪も、何もかも……。

 旧約聖書の大洪水は、絵空事の日々に辟易した人々の想いが起こした奇跡ではないだろうか。

「やっぱり、雨の日は憂鬱だ」

「だからってさー。閉店時間過ぎてるんだけど」

「君も、コーヒー飲めば? この雨の終わりまで」

 ――そう言って笑った彼の寝顔を、今は見つめている。窓から注ぐ朝陽が眩しい。


 これにて、了。

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