電話が鳴ったら

Scene.019

 電話が鳴ったら


 電話のベルが響いた。

 大嫌いだった。電話に出る、という行為を強制するかのような呼び出し音が。

 部屋の襖を開け、慌てて廊下に出る。突き当たりの窓からは紅い夕日が射し込んでいた。ふと、廊下の向こうを見て、受話器を掴もうとする、手が、止まる。

 否、時が、止まる。

 女が佇んでいた。長い黒髪の。蒼白で無表情な顔。睨むでも覗くでもなく、彼女はこちらを向いている。その白く細長い手には黒電話の受話器だけが握られていた。それは夕日を受けて、艶やかに光る。

 電話は鳴り続けている。

 呼び続けている。

 受話器を取ることを強制している。

 けたたましく。ジリリジリリ、と。それ以外の音は聞こえなかった。

 音に負け、震える手で受話器を掴んだ。ゆっくりと耳元に近づける。

 女が嗤った。


 これにて、了。

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