孤独な自転車乗り

Scene.016

 孤独な自転車乗り


 夜霧を孕んだずっしりと重たい空気が纏わりついていた。こんな夜は自分の足音がやけに響く。無性にコーラが飲みたくなって、外を歩いていた午前一時。自動販売機の側に彼女はいた。

「彼女?」

「何でも自転車でイギリス中を回っているんだって。世の中には変わり者が多いなって思ったよ」

「あなたもね……」

 ――何か飲む?

 僕もそう声をかけた。冷たいものは要らないって彼女は言った。春先とは言え、まだ三月だ。外は寒い。だから、僕は家に来ないかって誘ったんだ。彼女は了承した。若い男女が二人きり。そうなればすることはひとつだ。

「どうだった? 彼女」

「おいしかったよ。特に太腿なんて引き締まってて」

 ローズマリーと、ブラックペッパーと、レモンソルトで彩られた彼女は、最高にセクシーだった。


 これにて、了。

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