朧月

Scene.011

 朧月


「綺麗ですよね」

 はて、何のことだろう、と思い女は隣の少年を見る。白晢の顔に艶色を散らし、きらきらと空を見上げる少年の姿があった。

「そうね」

 女も少年と同じように空を見る。その眼の先、漆黒の夜空に浮かぶ上弦の月。冬空に二人の足音が淡々と響く。

「いつか月に行ってみたいんです。ロケットに乗って」

「そう」

 随分、突拍子なことを。そう思って女は笑った。隣で苦笑を浮かべる女を気に留めず、少年は相も変わらず空を見上げている。その瞳には、確かに月が見えている。彼女は彼の横顔に、夢を見た。駆け抜ける凩に身を縮め、吐く息は白い。その白い息を吐き出して、彼は呟く。

 弓張り月の射るに任せて、と。


 これにて、了。

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