スケルトン・ワールド

Scene.010

 スケルトン・ワールド


 世界の終わりを観に行ったんだ。

 病室のベッドの上、白いシーツに横たわる彼は、掠れた声で呟いた。

「砂漠の真ん中に、百五十席の椅子とスクリーンだけしかない映画館があるんだ。壁も天井もない。唯一、映写機を格納するアーチ型の屋根の建物だけが不格好に存在していた」

 終末映画館と呼ばれるその光景はシナイ半島の砂漠の只中に存在するのだと謂う。

「俺は右端の最前列のひとつ後ろの席に座って待っているんだ」

 何を、とは聞けなかった。私が黙っていると、彼は話を続けた。

「ワクワクしていたよ。何せ、この目で観る最後の映画なんだ。それはどんなに陳腐な内容でもおもしろいに決まっている」

 けれども、「そのスクリーンには何も映らなかった」

「そう、見えたのはいつもより少し綺麗な星空だけだ」


 これにて、了。

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