数学者はキノコ狩りの夢を見る

Scene.009

 数学者はキノコ狩りの夢を見る


 それは何でもない日常で、それは何でもない彼の日課だった。

 がらん、と殺風景な灰色の中に置かれたプランター。深緑の葉は、瑞々しく、光を求めている。水色の如雨露を傾けた。

 いつしか、彼以外の生命は死に絶え、此処で唯一生まれた彼のみが残った。希望を託した死の星を揺り籠へと再生することは叶わなかった。浅はかな夢の対価は、無機質な空間と、棺桶と、赤い砂だった。

 それでも、彼は与えられたプログラムを繰り返している。毎日、太陽の登る時間。朝焼けの光に輝く銀色のフレームと、先の尖った緑色の葉の交流は続く。

 いつか枯れゆく命だとしても――

 ――それがあなたにとって悪夢でありますように。


 これにて、了。

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