わすれな傘
Scene.008
わすれな傘
何処にでもあるモノだと思っていた。
ざあざあ、と降り出した雨。ぱらぱら、と屋根を打つ。そんな雨の日の喫茶店。季節は梅雨。じめじめ、とした大気。昨日も雨で今日も雨で、予報では明日も雨。
窓の外を七彩の花たちが擦れ違う。雨の日にしか咲かない花。近頃は透明なモノも増えてきた。それが美しいかと問われれば、どうとも答えられない。
テーブルの上のアイスコーヒー。グラスに付いた水滴がコースターを滲ませる。雨の日は少し退屈。憂鬱を怨むようにストローを噛んだ。からん、と黒よりは黒褐色に近い海の中で氷が音を立てる。
「うそ……。アタシの傘が無い……」
喫茶店のドアを押した先の傘立てに蕾が無かった。
何処にでもあるモノだと思っていた。
これにて、了。
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