抵抗者は靴を脱がない
Scene.005
抵抗者は靴を脱がない
雨が降る。空を覆う灰色めいた雲から。
さめざめ、と。
ただ、眺めていた。彼女は両目に架かるほど伸ばした黒い髪のフィルター越しに世界を見つめている。大粒の雨の中。傘も差さずに。
強い風は、濡れた身体から体温を奪い去ってゆく。
眼下に広がる千紫万紅はくすんでいた。雨の所為かもしれない。三千の世界も、それらを映す鏡が割れていたら歪んでしまう。以前、私の瞳には青い空が映っていた。融ける様に青い空。
青くて、青くて、憎らしいほど、清々しい。
けれど、今はさめざめ。そしていつも曇りがち。風は冷たい。
そんな世界に、さようならを告げよう。
灰色めいたコンクリートに響く靴音。後ろ手に隠した包丁からは、ポタポタと血が滴っている。それを捨て、彼女は灰色の空へ飛び出した。
これにて、了。
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