北極圏への最短飛行

Scene.004

 北極圏への最短飛行


 空なんて、どこを飛んだって同じさ。こわいことなんかひとつもない。

 翳りゆくオレンジ色の光の中で、彼はそう言って笑った。足下に広がる白銀の大地。夕日を受けて。操縦桿を引き起こした。高度計の目盛りが進む。カタカタ、と揺れ始める船体。唸りを上げる内燃機関。

 それは、きっと、大空を舞い、駆け抜けた冒険者たちの咆哮。

 快適な空の旅とは言えない。大気と重力は容赦なく僕たちを地上に磔けようと手を伸ばす。僕らは罪人だ。重力に対する反逆者。

 けれど、親不孝なのは、どの冒険者も同じだ。母親の気持ちなんて知らない。

 夢だからさ。

 彼なら白い歯を見せて、笑い飛ばしただろう。

 だからこそ、振り切って。音の壁さえ、突き抜けて。大気圏だって。

 そこで、あの周回軌道を掴めたら……。

 ――あの惑星までどれくらい?


 これにて、了。

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