Scene.003

　アナトミカル・ヴィーナス

　其れは、我々の理想形を模って造られた。

　官能的且つ写実的。豪奢なシルクのドレスを纏う女性の蝋人形。ルネサンスの流れを汲み、十八世紀の西欧で造られた解剖学の美しき人体模型たち。その腹部は切開されており、人間の内部構造を垣間見ることができた。

　ニューヨークで開かれた、美しき人体模型の展覧会の会場に僕はいた。

　まるで、眠っているように横たわる人形たち。しかし、その腹部は精密に再現された内臓で飾られている。中には、妊婦を再現したものもあった。

　最初は悪趣味だと思った。現代的な視点で見れば、悪ふざけとも思えるものだ。けれども、いざ、内臓を露わにして無防備に寝そべる美しい女性を目の前にすると、こう思ってしまうのだ。

　――解剖学を学ぶなら、教材はセクシーな方が良いだろう。

　これにて、了。

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