オールトの雲

Scene.002

 オールトの雲


 太陽系を球状に取り囲む天体群。彗星の生まれる場所。それが“オールトの雲”だ。

 角砂糖をひとつ、コーヒーに落として、彼は銀色のスプーンを手に取った。

「僕たちの社会も、星系に似ている」

 政府っていう太陽の周りを無数の個人が廻っている。その外側には誰の目も届かない暗闇がある。まさにオールトの雲。そこに存在する氷塊は、一度煽られると、彗星となってあちこちの星に衝突する。時には深刻な影響を及ぼすこともある。まるで、社会の暗闇で生まれて、一瞬ひとときに輝き、そして、刹那に消えるシリアルキラーの様に。

「あなたもそこで生まれたのかしら?」

「そして、君という木星の重力に囚われた」

「何で木星なの?」

「君を太陽と呼ぶには、君はあまりにも素朴だ」

「馬鹿にしてない?」

「いや、気に入っている」

 スプーンを掬い上げて、彼は微笑んだ。


 これにて、了。

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