VOL.12 迷宮都市パルダーレ
最初の拠点であったラフレイトの街から次に目指すは迷宮都市パルダーレだ。すでに出立しており、途中に小さな町や村があるようなので寄ってみたりしながら、ゆっくりと迷宮都市を目指す事にしている。
今は雲一つない青空でありとても気分がいい。飛翔魔法で空を飛びながらの旅なので、程よい風の温かさも気分を良くしてくれる。と、気づいた事がある。太陽が2つあるな。今までは気づかなかったがあれは太陽のような恒星だろうか? 今は昼間で明るいのに星が2つ見えるのはそれだけあの2つの星が明るいと言う事だろう。
あの大きな恒星が近いということは星に与える影響が強いと言う事だ。この星では定期的に何か天変地異でも起きてそうだな。なんて考えていると、目の前からそこそこ大きそうな生き物が空を飛んでこちらへ向かっているのが見えた。
どうやら歓迎してくれるのだろう。エリーに合図を送りどちらが相手をするか決める。
「どうする? 俺が相手するか?」
「いえ、ここは私が相手しましょう」
エリーが殺る気、もといやる気なのでここはおとなしく譲る事にした。そうして数分後にははっきりと姿を認識できるようになった。
「あれはなんだ? 竜か?」
「多分ワイバーンではないでしょうか?」
「ワイバーンというのは竜ではないのか?」
「明確な線引きはなかったかと思います。ただ本物の龍やドラゴンは、実力は一線を画しているので、あのワイバーンは大した実力は持ってないと思われます」
「そうか。では素材などは使えるのか?」
「ん~、多分ですが、牙や皮膚くらいは使えるかと。内臓も多少は使えると思われますが、わざわざ取るほどでもないでしょう」
要は実力も金銭的にも大した事のない雑魚ということか。ならさっさと倒してまた快適な空の旅に戻ろうではないか。
そう思っていると、向こうから攻撃を仕掛けてきた。どうやら口から炎を吐いてくる様だ。それに対してエリーが少し懐疑的な表情をしたが、難なくそれを避けて氷の槍を作り出し、それをワイバーンの喉を目掛けて投擲した。その驚異的な速度に氷の槍が通った跡にはキラキラと光る氷片が舞っている。
そして投擲された氷槍は狙い違わずワイバーンの喉を貫通し、その一撃でワイバーンを絶命させた。貫かれたワイバーンはそのまま地面に落ちていく、かに思われたが、エリーが風魔法を操って空中にワイバーンの体を浮かせている。
「近くで見ると中々に大きい体をしているな。8mくらいはあるか?」
「そうですね。多分これはワイバーンの中でも亜種になるでしょう。先ほど炎を吹きましたが普通ならばそんな事は出来ないはずですので」
「なるほどな。だから炎を吹かれた時、少し懐疑的な顔をしたのか」
どうやら普通のワイバーンよりは上位の亜種になるらしい。そんな亜種でも氷槍の一撃で葬ってしまうのだから、相手からしたら堪ったものではないな。まぁ俺が相手していても似たような物だっただろうが、このワイバーンは狩りをしようと俺達に近寄ったら自分が狩られる側だとは分からなかったのだろう。
強者というのは相応にそういったものなのかもしれないな。なまじ強いばかりに危機的状況を経験していない為、状況判断が出来ないのだろう。不運では片付けられない事だな。
俺も気をつけよう。力をつけて来たので少し驕っている部分があるかもしれない。今一度気を引き締めるとするか。
「どうしました?」
「いや、俺もこのワイバーンみたいにならないように相手の実力は見極めたいものだと思ってな」
「驕るのはいけませんが、今のハリスならこれ(・・)が100体来ても傷一つ付かないと思いますけどね」
「ああ、だがこいつの100倍強いやつが来たら危険だろう。ならばもっと強くならねばな」
きっと世の中には信じられないほど強い奴など腐るほどいるかもしれない。ならそれらに負けないようにもっともっと強くなる必要がある。俺は絶対にもうあの暗闇が支配する牢獄には戻らない。そう心に改めて誓うのであった。
「もうすぐ着きそうですね。着いたらまず何をしますか?」
「そうだな。きっとそこが次の拠点になるだろうから、まずまず良い宿を先に確保しとくか」
「分かりました。では拠点になる場所を探しましょう」
ワイバーンの素材取りをさっさと済ませ、次の拠点は、長く住むのであれば一軒家を借りてもいいなと思いながら、迷宮都市パルダーレへと近づいていく。
「さすがに空からは面倒が起きるだろうから歩いて入るか」
そうして人に見つかりにくい迷宮都市に近い森の中へ降り立ち、歩いて向かうことにした。
歩いて数分で立派な都市門(シティゲート)が見えてきた。まだ王都は行った事ないが、ここが王都と言われても分からないほど立派な門構えだな。ただの都市のはずなのになぜこれほど立派に頑丈に造っているのか少し疑問だ。
「ここはなぜこれほど頑強に門を作る必要があるのだ?」
「多分ですが、外から攻められるのではなく、迷宮から外へ出さない為ではないでしょうか」
なるほど。外からの攻めに対する物ではなく、迷宮から外へ出てくる魔物共を外へ出さない為にここまでの都市門(シティゲート)にする必要があるのか。それほどこの都市の迷宮は魔物が強いと言う事の証明でもあるか。
だからこそ猛者共が集まりやすいと言う事だろう。いい事じゃないか。ここならば色々と情報を持った奴も沢山いるかもしれないな。
そう願いながら都市門を潜り抜けようとするが、やはり様々な検査が待っていた。だが特にやましい物もないのでさっさと検査を受けて都市の中に入ることにする。
「気づかれませんでしたね」
「当たり前だ。俺とエリーにしか分からんだろうからな」
何を気づかれなかったかと言えば、少し前に使えるようになったアイテムボックスの事だ。時と空間の魔法を使えるようになり、さらに熟練度を高めた結果、広大な異空間とその中の時を完全に止める事が出来た何でも入れられるアイテムボックスを作る事に成功した。
マジックポーチと似たような物だが、わざわざポーチに入れたり出したりという手間もなく、何より生き物も入れる事が出来る。これが何よりも重要だ。マジックポーチでは制限魔法によって生き物は入れられないので、何かと不便な時もある。だが自分で作り上げたアイテムボックスは制限魔法を使っていないので、基本的には何でも入れられる。そう自分さえも入る事ができる――その際には時間が止まるので自分の周りに魔力を纏わせる事をしなければ、自分の時も止まってしまうのが難点ではあるが――
しかも念じただけで入れる事もできる。
そのやり方は、アイテムボックスの異空間と髪の毛の100分の1程度でもいいので、俺か俺の金属片と繋がっていれば何でも入れる事が出来る。
この極細の金属片はクモの糸のように1箇所からではなく、体中から出す事ができ、それを糸術のように操ることも出来る。言ってみれば見えない鋼鉄の糸と言った所か。エリーのようによほど感覚が鋭い奴なら見えるが普通の奴ならば見る前に死んでるだろう。
それに触れさせれば異空間に飛ばせるので、俺がわざわざ触ったり近づく必要もない。
これを応用したのがエリーの髪に編みこんでいる金属糸だ。エリーはまだ俺ほどのアイテムボックスを使えないので、エリーに金属糸を繋げる事によってエリーもアイテムボックスを使えることが出来た。空間魔法が少しでも使えれば、俺の金属糸を感知する事により、それを頼りに空間を開けば勝手に俺のアイテムボックスの異空間へ繋がると言った仕組みだ。なので俺みたいに離れてという事は無理だが、自身が触っていればアイテムボックスに色々と入れられると言う事だ。しかも出すときは常に俺の金属糸が付いているのでいつでもどこでも自分の出したい場所へアイテムボックスの中から出す事が出来る。
これはとても有効でメリットしかないが、唯一変わった事と言えばエリーの髪がメッシュが入ったように一部銀色になった事だろうか。エリーの髪はとても綺麗なペールアクア色の髪色だ。そこへ金属糸を巻きつけた事により銀色の部分が出来てしまった。
だが本人は意外と気に入っているようだし、特にデメリットもないのでこのままでもいいだろう。
指輪は腕輪、ネックレスやイヤリングといった装飾品にしたらどうだと言ったが、邪魔になるとの事で髪に巻きつける事に決まった。
そういう事で大事なものは俺のアイテムボックスに。それ以外の物は偽装の意味もあり普通のマジックポーチに入れるようにしている。
「まずは宿を探しますか?」
「そうだな。あまり金に余裕がないからそこそこの宿でいいだろう」
俺の強化の為に属性金属を大量に買い込んでしまったので、あまり持ち金がない。なのでまずはそれなりの宿を取りさっさと金を稼ぐ事にする。迷宮を深く潜ればそれなりに金は溜まりそうだと思うので、宿を取り次第、早々に迷宮に潜りに行くとしよう。
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