VOL.11 無双

 子龍のいる場所へはすぐに着いた。空から見ただけでそれが分かるほどの群れがいたからだ。これは軽く300匹以上はいるだろう。1体1体はそこまで大きくはないが、これだけ群れると異様な光景に見える。

 と、そのうちの1体がこちらに気づいたようだ。

 さて、どうするかと思っていると、なんとそいつはこちらに向かって飛んできたのだ。


「ほう、まさか飛べるとはな。ではまずは俺からやるか」


 まずは俺がその1匹を右腕を刀のように変形(メタモルフォーゼ)させて向かい討つ。何の事はない。こいつらはその口で噛み付く事しか出来ない奴らのようだ。俺には傷ひとつ付けられまい。

 そう思いながらそのビッシリと生えた牙だらけの口を体ごと真っ二つに切り裂いていく。

 それだけの行動だったが、1匹片付けたとなると残りがすぐにこちらに気づいていく。どうやらリンクしているようだ。とんだ性能を隠していたな。村人がこいつらを倒せなくてよかったな。きっと倒していたらあの村周辺は壊滅していたかもしれない。

 そんな事を思いながら一斉に地面から空中にいる俺に向かって飛んでくる子龍達。


 そのリクエストに応えるように俺は子龍達がいる場所目掛けて自身の体を投下していく。

 近寄ってきて俺の手の届く範囲に入ったものは片っ端から切り裂いていく。右腕だけで追いつかなくなると左腕、そして右足、左足と変形(メタモルフォーゼ)させ、それでも足りなくなると体から針のように子龍達を突き刺していく。

 その惨劇にいまだ地面にいた子龍が逃げようとどんどんと散開(さんかい)していく様子が見て取れた。


 ――なんだ、たわいもない――と思いながら、俺だけ楽しんではいけないだろうとエリーに心話(こころわ)で伝える。


「(エリー。1匹たりとも逃がすな)」

「(ええ、そのつもりです)」


 すでにエリーは魔力を溜めていて、どうやら派手な1発をお見舞いするようだ。


 エリーは天に向かって右手の人差し指を差していく。そしてその先から火の玉が作られる。その火の玉が見る見るうちに膨大していき、仕舞いには直径10mはあろう巨大な炎の玉になっていた。それをゆっくりと地面に向けていく。

 まさかそれだけで逃げている子龍全てに当たるのか? と思っていると、エリーの一言で突然それは弾け飛んだ。


 ――行きなさい 《フレアボム》――


 その一言を切っ掛けに巨大であった炎の玉が一斉に弾け、無数の火の玉となって当たり一面に降り注いでいく。それは小さな流星が無数に落ちていく様に見えて、地面に着弾した途端、その周囲が爆風と共に弾け飛び、樹木にもその炎が飛んで燃え盛っている。

 見た目どおりの威力を持っており、そこかしこでそれらが爆発を起こしていく。その煽りを受け子龍共は1体1体ではなく一気に数十体づつ炎に飲まれ、塵も残さずに燃え盛り消えていく。

 これだけの魔法を使わなくてもとは思うが、鬱憤晴らしにはちょうど良い魔法でもあるか。残りは俺の周りにいる子龍どもだけではないだろうか? 軽く9割以上はエリーのたった1つの魔法で消し飛んでいっただろう。だが一応、念の為に消火の意味合いも込めて俺も魔法を使っておくとしよう。未だに俺に喰らい付こうとしている子龍どもを引き連れて地面に降り立ち魔力を溜めていく。その様子を見たエリーが少し俺から距離を取る。

 あれだけのフレアボムを放っても俺に掠(かす)る事もしなかった魔力コントロールはお見事と言わざるを得ないが、俺も負けじとやってやろうじゃないか。


 そうして必要な魔力を溜めた後、俺は地面に右手を付け、ポツリと一言唱えた。


 《アイス・フィールド》


 その一言で一斉に周囲が一気に氷化粧の景色を作っていく。半径50mは今の一言によってすべての生物が時を止めるかの如く凍り付き、小さな花でさえも花氷となっていた。樹木は勿論、あれだけ燃え盛っていた炎もその形を留めるほど凍り付き、エリーの足元寸前までの空気すらも一気に凍り付いた。

 空を見上げると陽の光を反射した氷の結晶と化した空気がキラキラと降り注いでいる。それはとても幻想的な光景であった。


 エリーが俺のそばに下りてきていた。それはとても満足したような表情だ。どうやら山の一体を焼き払った事により、溜まっていたストレスは解消されたようだ。

 俺も俺で体を様々な形に変形させる事ができたし、山の一体を氷漬けにした事によって、かなりのストレス解消を図(はか)ることが出来た。

 ……と思っていると、何やらエリーが俺に向けて手のひらを突き出してきた。まだ距離は10mはあるだろう。

 何をしているのだ? と疑問に思っていると、静かな、それでいて凛とした声が届けた物は……


 《サンダー・ボルト》


 1つの魔法であった。

 それは一直線に俺に向かって飛んできた。その速度は避ける事も難しい速さだ。それが俺の数センチ左を通過し振り向いた時には何かに当たり爆発を起こしていた。

 その爆発跡を見つめているとエリーが近づいてきており一言述(ひとことの)べた。


「子龍が湧いたようですのでサクッと倒しときました」


 どうやら子龍が生まれたと言う事だ。子龍は魔物のようで、魔物と言うのは自然と勝手に生れ出づる物らしい。

 それをいち早く察知し、生まれる前に雷魔法を放ち、生まれた瞬間には爆発していたと言う離(はな)れ業(わざ)を披露した訳だ。

 それならそうと一言言って欲しいものだが、話す暇もないほどすぐに生まれたのだろう。ならば仕方ないと、少しピリピリした事は許してやる事にする。だが注意しとかないとな。


「魔法を使うのは構わないが、金属は電気を通しやすい。俺は全身が金属だから少し電気でピリピリしたぞ」

「それは申し訳ありませんでした。完全に制御したつもりでしたが、やはりダメでしたか」


 どうやらエリーは分かっててやったようだ。それほど魔力操作に自信があったのだろうが、電気と言う物は特に制御が難しい。出来れば俺以外で試して欲しかったな、と伝えるともうしませんと言ってきた。

 素直なのを褒めるのか、そもそも試した事を怒るのかよく分からなくなったので、次からはやめろと言うだけに留(とど)まった。

 とりあえずこれで子龍退治は終了だ。時間にして10分も経っていないかもしれない。移動時間を含めても往復数十分て所か。なら1時間も掛からずに終わった事になる。

 当初の予定よりさらに短い時間で終わったので俺もエリーもご機嫌になり、この山の惨状などは気にしなくなっていた。火などは全て俺の魔法で消したので大丈夫だろうと思い、このまま村へ帰ることにする。


 少し気分良く、帰りの空の旅を堪能すること数十分、依頼達成を伝える為に村の村長の家へそのまま空から入ることにする。どうせ村人は大半が家の中にいるので見つからないだろう。と思っていると、どうやら村長は家の外に出ていたみたいでこちらを見つけたようだ。

 村長ならば問題は起きないだろうとそのまま村長の家の前まで飛翔魔法で行く事にした。


「あんたら空を飛べたのかい? 所で何かしたのかね? なんだか凄い音がしてみんなが出てきたから家の中に戻し終わった所だよ」

「ああ、子龍の掃除が終わったから戻ってきた所だ」

「馬鹿を言いなさんな。こんな短時間で終わったなら誰も苦労しないさね」

「ああ、何の苦労もしなかったさ。誰か偵察にでも出してみるがいい。子龍の塵くらいしか落ちてないだろうがな」

「ほ、本当に倒したのかい? 嘘じゃないね?」

「だから嘘だと思うなら偵察に行けばいいさ」


 俺の言葉を信じられないというように目を見開き、現実を受け入れられないでいるようだ。まぁ仕方ないのかもしれないな。1ヶ月以上も恐怖に怯え餓死しようかとしていたのが、ものの1時間ほどで解決してしまったのだからな。

 村長は俺の言うように10人の偵察隊を組み、そいつらに子龍がどうなっているか調査するよう命じていた。あとはそいつらが戻ってくるまで俺達は村にいることとなり、何もないがとりあえず先に祝いだという事で、質素ながらも様々な食事を振舞ってくれた。酒なんかもあり、今まで外に出れなかった村人達数十人が村長宅に集まって宴会のようになってきた。そうして数時間が経ち、みんなほろ酔い気分でいい感じになっている頃、偵察隊が戻ってきて、山の一部が滅茶苦茶(めちゃくちゃ)になっていたが、確かに1匹も子龍はいなかったと伝えた。随分早いお帰りだなと思っていたら、この村には10頭だけ馬がいるという。それに乗って行ったらしい。


 無事に帰ってきた偵察隊から子龍の話を聞いた村人たちが、一斉に今までのほろ酔い気分を吹き飛ばすほど元気になり、皆が皆、一様に喜び涙を流している。

 俺達にとっては取るに足らない事なのだが、村人にとっては文字通り生死に直結する出来事であったのだろう。気軽い気持ちで選んだそこらと変わらない依頼だったが、こんなに喜んでもらえるとはな。とりあえずはやってよかったと言う事だろう。


「あんたらほんとに良くやってくれた。まさかほんとに倒していたとは、ほんとうにすまなんだ」

「おう、あんたらのおかげでこれからも生きられる。ほんとあんがとなぁ」


 他にも多くの人が俺達に感謝の意を述べていく。中には酔いすぎて何を言っているのか分からない奴らもいたが、気にするなと言っておいた。

 もうこの村は子龍の脅威にさらされることもなくなり、ひとまずは平穏が訪れる。だが最後の子龍を倒した時のように、また一定時間経つと子龍が湧いて出るかもしれない。こんな事をずっと続けていくのかと思ったが、子龍が出るのは滅多になく、たまたま湧き年だったのではないかと言う事だ。以前に子龍が湧いたいのが数十年も前だとかで、これから数十年は湧かないだろうとの事。

 それならいいが、また湧いてしまったら俺達が来れるとも限らないので気をつけろと言っておき、湧いたポイントを定期的に偵察に行けと伝える。


 それからは報酬の話になり、本来の貰える報酬よりも多く出そうと村人達が持ち物を出す為に家に帰ろうとしたが、そんな物はいらないと言い、本来出る額の銀貨10枚だけを貰う事にした。大銀貨1枚と同じ価値だが、村では銀貨以上は持つことが滅多にない為に今回は銀貨で10枚となったようだ。

 家畜が沢山食べられ苦しいだろうに、しっかりと報酬は出すのだなと思い、何かこの村に珍しい金属はないかと聞くと、村人の1人が代々、家に受け継がれる物があるという。受け継がれると言っても珍しそうだから持っているといった程度だが、それを見せてもらう事にした。


「エリーよ。これはどんな物だか分かるか?」

「……これは小さいですがアダマンタイトではないでしょうか?」

「アダマンタイトか。確か世界でもトップクラスの硬さを誇っていたのだったな?」

「はい、とても珍しい物です」

「そうか。 ならばこのアダマンタイトを金貨1枚で買い取ろう」


 俺の言葉を聞いた村人全員が一斉に驚き騒ぎ出す。俺はアダマンタイトを出した村人にお金をあげたいが、きっと良くない事が起こるだろうと、村長と相談し、このお金は村の為に使うという事になった。

 ただそれだけだとアダマンタイトを持っていた村人に悪いので、何かの際にとあらかじめ作っていたミスリルの短剣を渡しておく。それを貰った村人は大喜びし、アダマンタイトの代わりに家宝にするという。

 それを見た俺は満足そうな顔をしながら、宴会が終わるまで楽しむ事にした。


「(あれはあの時の短剣ですか?)」


 エリーが心話で話しかけてきた。

 そう、あの時というのは、俺が自在に金属と融合を図れるようになり、そしてジガッドを支配できた夜の事だ。試しに金属に人工知能を搭載し、短剣から人の言葉や辺りの様子などを音や映像で見れないかと実験した結果、出来た短剣である。

 あの短剣をあげたと言う事は、また子龍が出たときにはすぐに気づけるだろうと思いあげたのだ。まぁ数十年は出ないらしいが。

 それに気づいたエリーがお優しいですねと言ってきたが、短剣がどの程度使えるか試したいだけだと返し、村で1夜を過ごした後、村人みんなに見送られながら無事ラフレイトの街へと戻っていくのであった。


 最後に村長に言われた言葉だが、「あんたらの力は強すぎる。厄介事に巻き込まれる事もあるだろうから、十分注意なされよ」という事を言われた。

 確かにこの世界の知識も浅く、経験もあまり積んでいないので、悪目立ちをしたらすぐに目を付けられるだろう。そうなると厄介事は向こうから降ってくるのが常だ。ならば今まで以上に考えて行動しなければと、エリーと共に肝に銘じ、これからを生きて行こうと思う。


 そしてラフレイトに着いたら依頼達成を伝えて、無事依頼完了となった。

 その後は自分を殺して生きていくのは辛いという結論に至り、では猛者達がわんさかいる所ならば普通に暮らせるのではないか? と言う事で、これからの行き先は迷宮都市、パルダーレに行く事になった。

 パルダーレはここからかなり遠く、飛翔魔法でも10日は掛かるだろう。牛車ならば3ヶ月以上は確実に掛かりそうだ。なのできちんと身支度を整え、準備が完了したら迷宮都市パルダーレに向かうことにする。


 そこにはどんな奴らがいてどんな事が起こるかは分からないが、腕利きの冒険者が集まると言う事で、とてもワクワクしている。

 迷宮からは珍しいアイテムが出ることが多い、俺にとって有益な金属も出るかもしれないのでそこも期待したい。


 ああ、そうだ。金貨1枚で買い取ったアダマンタイトは実際は大銀貨8枚程が定価らしかった。なので子龍討伐の依頼料を貰っても赤字だ。だが子龍の討伐は楽しかったので良しとするか。それにアダマンタイトを右腕の外側に融合した所、ミスリルよりも遥かに硬くする事ができた。ミスリルや他の属性金属とも融合しているので、想像よりもさらに硬くなっているようだ。

 どうやら金属をごちゃ混ぜにしたら成分が変わり弱くなったり異常が出ると言う事はなく、しっかり相乗効果でさらに強くなってくれるようなのだ。ならばもっともっと硬い金属を見つけそれを融合していけば、俺はもっともっと強くなれるという事になる。

 迷宮都市でそういったレアな金属が見つかればいいなと思いながらラフレイトの街を出立する事にしよう。


 迷宮都市パルダーレ。 とても楽しみだ。

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