VOL.10 子龍探し
あれからランクを上げる為に冒険者活動を始め、あと2・3回ほど依頼を受ければようやくDランクへなれるという所まで来た。
今まで依頼を受けたのは大抵が雑用だったり獣や魔物の素材集めだったりだ。実につまらん。
特に身になることも無くランクを上げる為だけにやってきたが、正直時間の無駄だったかもしれん。
「ハリスはもうAランクも超えるほどの力を持っているのでFやEランク程度の依頼は退屈でしょうね」
そう、なぜつまらないかと言うと、常に1割未満程度の力しか使わないような状況が続いていたからだ。
結局Dランクという一人前になるまでは、厳しい依頼など1つも受けられずにフラストレーションが溜まってばかりだった。しかしそれももうすぐ終わる。Dランクになればどうやら1つ上のランクの依頼をパーティーを組んでいれば受ける事ができるようだ。パーティーならすでにエリーがいる為、DランクになったらすぐにでもCランクの依頼を受け、今までの鬱憤を晴らそうと誓いながらまたEランクのちゃちな依頼を終わらせることにする。
「はい、お疲れ様でした。これで規定の依頼数を達成されましたのでDランクへ昇格出来ますがされますか?」
「ああ、もちろんだ。すぐに昇格する」
「はい、ではすぐに手続きをしてまいります」
これでようやく下(くだ)らない日々が終わると思うと、少し清清しい気持ちになる。
ちらりと横を見るとエリーも同じ気持ちだったようで……
「ようやくこれで私も付き添いから卒業できますね」
「ああ、そうだな。別に俺に付き合わなくてもよかったのだぞ?」
「いえ、私一人では特にしたい事もありませんし、ちょっとやそっとじゃAランクにもなりませんからね」
「そうか。悪いかったな、待たせて。これからは厳しい依頼でも受けるか」
「はい。何か鬱憤を発散できる狩りの依頼がいいです」
「分かった。それじゃ受けたい依頼を探してきていいぞ」
そういうや否やエリーはさっさと掲示板へ行き、目を皿の様にして依頼を探し始める。だがその目は獲物を狙うハンターの目になっている。それは周りの冒険者達が近寄り難い空気により掲示板に近寄れないほどだ。
どうやら俺よりもただ付き添っていたエリーの方がフラストレーションが溜まっていたようだ。
この頃感じるのは、初めはあまり人間らしくなかったエリーだったが、最近は段々と人間らしい言動が出始めてきている気がする。
もしかしたら最初は俺の人格をそのまま投影していたのかもしれない。それがエリーという人格を読み取ったせいで、より人間らしい言動になっていったのだろう。
という事は、俺は人間らしくないという事でもある。 ……ふむ。 これからこの世界で生きていくのにこれでは不味いだろうか? 等と思っているとエリーが獲物を見つけたようで、依頼書を片手に戻ってきた。そこで今思ったことを言うと、特にそこまで違和感はないので、急に変わらなくても良いのではないかと言われた。それに「もうハリスは変わっていますよ」と言われ、どこがだ? と問うと、「そのような事を考えているだけで、すでに変わり始めている兆候です」と言われた。
なるほどな。俺も俺で少しづつ変わり始めていたのか。中々自分では気づきにくいものだからな。
このままで良いと言われるのであればこのまま行こうではないか。
こうして些細な悩みを解決し、Dランクになった冒険者カードを手にさっそくCランクの中でも特に危険だと言われている子龍狩りの依頼を受けるのであった。
ただいきなりCランクの危険度MAXの依頼を受けた為、受付嬢の顔が引き攣っていたが問題はないだろう。
「ではさっそく行きましょう。今回は少し遠いので牛車を使いますか? それとも2人で飛んでいきますか?」
「牛車か。どうせ途中までなのだろう? なら飛んでいったほうが早いだろう」
「分かりました。では行きましょうか」
ヒラリと膝上のスカートを靡(なび)かせながら歩いていくエリー。以前とは服装が変わっており魔法使い然とした格好から、脳を支配した事により身体能力が飛躍的に向上した為に、今では丈の短い動きやすい服装となっている。だが見た目に反しとても丈夫に出来ている。なにせ金貨3枚も費やした代物だそうだ。いつの間にと思ったがどうやらエリーの前の元の人格が密かに買っていたらしい。着れないけど可愛いから買っていたそうだ。女の子はどんな職種でも女の子なんだなと感じさせられた。
だからと言う訳ではないが、エリー自身もゆらゆらと揺れるスカートのようにどうやらウキウキとした気持ちを抑えられないようだ。いち早く街の外へ行き飛翔魔法ですっ飛んでいく。
おいおい俺を置いていくつもりか、と思ったが、そういう俺もようやく力を抑えなくても良いと思うと心が弾(はず)んでくる。なので覚えたばかりの飛翔魔法により、牛車よりも早く行けるのでそれを使ってエリーに追いつき、この街から南側にある人里に近い山に向かい飛んでいくのであった。
「ようやく遠出が出来ました。風が気持ちいいですね」
「ああ、そうだな。近場のチャチな動物ばかり狩っていたからな。力もエア・ガンひとつで済む奴等ばかりで味気なかったしな」
「ええ、ほんとうに」
飛翔魔法で空の風を切り裂きながら、こうした事も出来なかったとお互いに鬱憤を晴らすように速度をグングンと上げていく。時折近くにいた鳥たちが俺たちの風の煽(あお)りを受けて地面に滑空していく姿も見られる。それを気にするでもなく、さらに速度を上げていく。
どの程度出ているかは分からないが、まだ音速までは行かないだろう。なので大した速度でもないと思いながら目的の場所へ向かって一直線に進んでいく。
――ちなみにエア・ガンとは中位の風魔法でただ単に風を圧縮し飛ばすだけの魔法だ。威力はガン(銃)と付いているように、鉄には及ばないがちょっと細い樹木などには穴が開く程度だ。これでも普通の人よりも威力が大きいらしいが、俺には何てこと無い魔法なので、こればかりで狩りが成立していた為に不満が溜まっていたのだ――
出発して3時間も経っていないだろうか。そろそろ山の麓(ふもと)の村に着きそうなので高度と速度を下げながら、辺りの様子を窺(うかが)う。そこで少し異変に気づく。
今までの道のりでは優れた聴力を活かし、虫の音や鳥や魔物などの鳴き声が頻繁に飛び交っていた。だが段々と山に近づくに連れてその声が少なくなってきたように思える。
「エリー。なんだか鳥達の鳴き声が減ってないか?」
「……確かにそうですね。先ほどと様子が違いますね」
「子龍の退治と書いてあったが、そもそも子龍とはなんなのだ?」
そこで気にしてなかったが今にして思えば、子龍と言うのを全く知らなかった。なので依頼を受けたエリーに聞いてみると……
「分かりません。Cランクの危険度の高い掲示板にあったので適当に危険度の一番高い物を持ってきました」
と、普段の知的なエリーからは信じられない言葉が返ってきた。そこでニコリと笑われてもな……。
仕方ないと思い、村に着いたら依頼を出したやつに話を聞きに行こう。
そうして話しているうちに村らしきものが見えてきたのでさらに高度を下げていく。
そのまま村の中に入ってもよかったが、騒ぎになると面倒なので入り口から入ることにした。
「なんだか普通の村のように見えますね」
「ああ、何が問題なんだろうな。とりあえず村人に聞いてみるか」
周りに柵があり一応の獣避けはしている周囲2・300mはあるだろう小さな村に入っていく。
小さいだけあって村の中にはあまり人はいないが近くにいた男に依頼に来た事を告げる。すると村長が村の中央よりやや奥の家にいるとのことなので早速行ってみる。
歩きながら辺りを見回してみるがこれといった物は見つからない。どうやら建物のほとんどが住居のようだな。特に店などもあるわけでもないようだ。それとも店は村人しか来ないから看板などが出てないのだろうか? とりあえずラフレイトとは比べ物にならない程に貧相な場所のようだ。
それになんだか見かけた村人の大半が痩せ細っているように見える。
「村というのは大抵こんな感じなのか?」
「ええ、そうですよ。他もこんな感じの村ばかりでしたね」
「なるほどな。1つの部族がそれぞれ住んでいる感じか。一応ここもラフレイトと交流くらいは持っているのだろうか」
「多分、年に数回、売買をする程度じゃないでしょうか」
「なるほどな。よくこういう所に住み続けられるもんだな」
「みんな生まれ育った場所がいいんですよきっと」
「そうか」
エリーの言葉には同意は出来なかった。俺はもう2度とあんな何も無い光すらも無い場所には戻りたくは無いからな。だがまぁここの村人達はそうではないから、やはり俺以外の者にとっては生まれた場所を離れたくは無いのだろう。
そんな事を考えながら、二回りほど他の家とは大きさの違う家が見えてきた。あそこに村長がいるのだろう。さっそく家に入ってみることにする。一応入る前に声は掛けるが返事がなかったので中を窺う。すると一人の老婆の姿が目に入った。あちらもこっちに気づいたようだ。
「おや、いらっしゃい。気づかなくてごめんよ」
「いや、勝手に入ってすまなかったな。子龍の依頼を受けに来た」
「おやまぁ、あんな依頼を受けてくれる人がいるなんてね。どこぞの阿呆だい」
阿呆とは失敬だなと思ったが、にこやかに笑っているので本当は来てくれて嬉しいようだ。詳しく話を聞いてみると、冒険者ギルドに依頼を出しに行った青年がギルド職員に言われたらしい。
「子龍の依頼はCランクになります。ですがただでさえ危険なのに数が多いとBランクになります。そうなると報酬の桁が増えてしまいます」
この村では報酬を出せる額がCランクが精一杯だったのでCランクでの依頼にしたらしい。だがそれだと報酬にリスクが見合ってない為に、すでに1ヶ月は放置されていたとの事。なので村長も諦めていて、もし来たなら命知らずの阿呆だと思い、解決もしないだろうと思っていたようだ。そんな話を聞いて俺とエリーはお望みならば阿呆になってやるかと頷いた。
どういう事かというと今から出発し、数時間程度で解決して戻ってきてやろうと言う事だ。
すぐに戻ってきたら、あちらさんはどうせ失敗したのだろうと思うだろう。しかしもし成功していたらどういった顔をするのか楽しみだな等と思ってしまった。
それはエリーも同じようで、早速行ってくるかと同じ気持ちになりさっさと山に入ることにする。
「こりゃこりゃ、もう行くのかい? 焦らんでも向こうは逃げやせんよ。むしろ向こうからやってくるじゃろう」
子龍というのは本物の龍族ではなく、蛇の龍に似た形をしているから子龍と名づけているらしい。
大きさは1mと少し程度。だがその行動は団体で行動し、動物を狩りすぎて根絶やしにしてしまう程。
普段は数がそこまで多くないので山の中だけの行動範囲だが、数が増えすぎると麓(ふもと)まで降りてきて、家畜などの動物を食べてしまうらしい。それに人間もたまに食べられてしまうので、どうしようもなくなって依頼を出したようだ。
よく死ななかったなというと、大食漢ではないので、腹いっぱいになると巣に戻っていく為に、家の外に出なければ問題は無いとの事。だが家畜が食べられてしまうので、このままでは村は飢え死にするしかないという。
ならばさっさと狩った方がいいだろうと、やはり今から山へ行く事にした。
村長はなんとか説得したいようだ。そりゃそうだろう。1ヶ月も待ってようやく来た冒険者だ。無闇に死んで欲しくはないだろうしな。
だが俺たちをそんじょそこらの冒険者と同じに見てもらっては困ると、さっさと村から出て行くことにした。なにやら泣きそうな顔になっていたが朗報を待っていろと心で思いながら、飛翔魔法ですぐに子龍の元へ向かっていった。
「あのおばあさん、とても必死でしたね」
「そりゃそうだろう。俺たち以外もう来ないと思っていただろうしな」
「私達が死ぬと思われているとは心外ですね」
「まぁ仕方ない。なにせ2人しかいない上に休まずすぐに討って出るのだからな」
「それもそうですね。でも子龍ごときであればすぐ終わるでしょう。それよりもあれはどうしますか?」
「ん?」
エリーの指差すほうを見てみると、何やら人間らしき物が倒れている。仕方ないと降下し様子を見てみる。
「死んでるのかこの男は?」
「ええ、そのようで。死因はなんでしょうか」
「ん~、外傷などはないようだな。少し痩せ細っているから餓死でもしたか?」
「……どうやらそれっぽいですね。外傷もウィルス等にも掛かってないようですし」
餓死したとしても死亡時刻が近ければ、まだ死体は新鮮なはずだ。ちょっと支配してみるか。
そう思い死んでいる男の耳から体の一部の金属片(リトル・ドミネーター)を入れてみる。
ジガッドに組み込んだ時の命令プログラムよりは少しだけ命令を多めにし、耳の中に指を突っ込み金属片(リトル・ドミネーター)を潜り込ませる。
それから時間にして数分だろうか。男の顔が動きこちらを窺う目の動きをしている。そして体がゆっくりと動き、起き上がってきた。
「成功したか?」
「はい、ハリス様。うまくこの体を支配できました」
「そうか、良くやった。では死因はなんだ?」
「はい、死因は餓死のようです。家畜が子龍に食べられたので飢え死にするしかなかったのですが、一か八かで山の森へ食料を取りに出かけた所、限界が来たようです」
「そうか。ではおまえはこのままだと動くのも出来なくなるのか?」
「はい、今は無理やり魔法で動かしておりますが、栄養が足りなければそれも出来なくなるでしょう」
「そうか。なら1週間分の食料をやるから、まずはそれで体力を回復させろ」
そう言い、マジックポーチからパンや焼いてある肉など1週間分となる食料を渡してやる事にする。それを貰った瞬間から勢い良く食べ始め、2日分の食料を食べてしまったので、また2日分の食料を足してやる事にした。
「では命令だ。おまえはあの村で生前のように振舞い暮らしていけ。そしてこの世界や村のこと、可能ならば他の街や人間の事などを調べろ」
「はい、出来る限りやってみます」
「死にそうになるならばやらなくていいからな。無理の無い程度でやっておけ」
そう言うと男は村に帰っていく準備をする。その背中を見送ったあとはさっさと子龍を片付ける為に、また山を登って行こうと飛翔魔法で空に掛け上げるのだった。
「そろそろ子龍の住処のようです」
「ああ、さっさと片付けよう。ここなら少しくらい無茶しても構わないだろう?」
「ええ、問題ないでしょう。木々がなくなるくらいでしょうから」
まぁそれが問題だと言いたかったのだが、少しくらい無くなってもいいだろう。なので見つけ次第、今までのストレスを発散すべくどんな魔法を使っていくかを考えながら、 ――ああ、早く何でもいいから破壊したいなぁ―― などと考えながら生け贄、もとい子龍を若干血眼になりながら探すのであった。
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