VOL.9 全属性魔法、習得完了


「ジガッド、とりあえずお前は記憶にあるとおりの生活へ戻れ。あとは指示した情報を集めろ」

「了解しました」

「ああ、その言葉遣いは俺たち以外ではいつも通りに話せよ」

「はい、了解しました」


 全く直ってないが、まぁここには俺たちしかいないので命令通り直していないだけなのだろう。あとはこの空間だが、周りの壁は補強してあるのでこのままでいいだろう。また何か不測の事態が起きるかもしれない。まぁ特に俺が勝手に起こしそうだが――それは置いておいて。

 その為にこの場所を残しておいてもいいだろう。という事でエリーにさらなる補強を頼み、穴を俺たち以外には見つからないように細工をして塞いでおく事にした。


 そして指示従いにジガッドは普段通りの生活へ戻っていった。まぁ、またトラブルを起こすだろうが少しづつ学習していくだろう。そうなると死ぬ可能性が低くなるので情報も集まりやすくなるだろう。だが所詮は小物が粋がっているに過ぎない人間だったやつだ。碌な情報は集まらないだろうが、まだ実験体1号なのだ。焦る事はない。これからじっくりやっていけばいい。

 そしてこれからだが予定が少し狂ったが――自分から狂わせたのだが――また属性金属を買いに出かけようと思う。

 今のままでも十分かもしれないが、魔力量はエリーを凌いでいても属性物質、その数は遥かに少ない為に、魔法の威力はエリーと同等だったりする。いや、それより少し劣るか。

 なのでこれからは属性金属を大量に取り込んで行くのが目先の目標となるだろう。

 しかし……


「やはり金属をそのまま売ってる店と言うのはないものだな」

「そうですね。何がしかに加工されているのが一般的ですので、またディサベル商会へ行きましょうか」

「そうだな。やはりそれが手っ取り早いだろう」


 ということで、2・3週間ほど前に宝石や金属を売り、そしてミスリルを大量に買ったディサベル商会へ足を運ぶ事となった。

 倉庫エリアから少し歩いたが身体強化や全身金属化したおかげもあって、全く苦にならずに着く事ができた。

 ――ちなみに全身をミスリルと融合した事でなぜか疲れという物がなくなり、その代わりに一定の運動量を超えると魔力が消費されるといった現象が起きている。多分だが動きを阻害する乳酸等の物質が出なくなったのかもしれない。そして充電池のような仕組みに変わったのではないだろうかと思っている。それは一定時間休むと、また動いても魔力を消費しなくなるからだ。

 だがまぁ、疲れないということは途轍もないメリットではあるので長期戦には持って来いだろう。ただ魔力の残量には注意が必要なので、やはり魔力を補充出来るようにしとかなければな――


 とりあえずディサベル商会に着いたのでさっさと中に入る事にする。

 入ったらすぐに、先の取引で担当していた老齢の男性がいた。あちらもこっちに気づいたようで声を掛けてきた。ではまたこの人間に見繕ってもらうか。


「いらっしゃいませ。お久しぶりでございます。また何かお売りに来られたのでしょうか?」

「いや、今日は買いだな」

「それはそれは。今回は何をお求めでしょうか?」

「ああ、属性金属を貰いたい。あるだけ欲しい」

「それはまた豪胆でございますね。それでは以前と同じ別室へご案内しましょう」

「ああ、よろしく頼む」


 一見、朗(ほが)らかな顔をしているが、こちらを見定める目は以前と変わらないな。まぁこんな売買をするやつなぞほとんどいないだろうからな。警戒するくらいがちょうどいいだろう。

 だがまぁ俺とて馬鹿ではない。むやみやたらと敵意の無いやつまで殺す事はしない。まぁ価格を限度を超えて吹っかけてきたらその限りでもないが、ややこしくなるのでなるべく手は出さないようにしないとな。


「あまり厄介な事は考えないでくださいね」

「なんだ、厄介とは。少しは大人しくしてるさ」

「それならいいですが」


 心話を使ってないというのに俺の心情を読み取ってきやがったか。これからは少し注意せねばな。などと考えているうちに部屋に通されお茶などが運び込まれてきた。


「ではどのようなものが欲しいのでございましょうか?」

「さっきも言ったように属性金属を買えるだけ欲しい。もちろん1種類だけでなく全種類だ」

「さようでございますか。では下位から上位の物までございますが、それも全てでしょうか?」

「ん~、そうだな。なら上位だけで良いか?」

「はい、上位の金属だけでいいのではないでしょうか」

「そうか、なら上位だけでいい。種類はあるだけ欲しい。皆同じ量でだ」

「かしこまりました。では今在庫を調べてまいりますので、少々お待ち下さいませ」


 エリーと確認を取り、とりあえず下位の属性金属は今さら必要ないだろうということで、すべて上位の属性金属を取り揃えてもらう事にした。どのくらいあるかは分からないが、こちらの予算は向こうもある程度知っているだろう。なにせ以前に取引した金がそこそこの額だったからだ。なのできっとそこら辺を目処に品物を持って来るだろう。それくらいあの老齢の男はやり手であろう。そういえば名前をまだ知らなかったな。まぁ今さらか、知らないなら知らないで不都合はないのでこのままでいいだろう。必要があるなら聞いとくか……と思ったが、きっちりエリーが聞いていたようだ。やるなエリー。


「お待たせしました。こちらの品々が今回ご用意できる物で御座います。どうぞお手に取りお確かめ下さい」


 手押し車で大量に持ってきたのは大小様々で色とりどりの金属であった。それは以前、鉱山で発掘した属性金属よりもはっきりした色鮮やかな金属で、見ただけで以前の金属とは比べ物にならないと分かるほど。大したものだ。ここまでの差が中位と上位ではあるのかと今さらながらに思わされる。

 やはり魔法にも言える事だが下位から中位には圧倒的な差があり、そして中位から上位にも決して超えられない壁が存在するのだろう。ただ魔法は使い勝手でそれを超えられるが、金属や宝石などの鉱物類はその限りではない為に、ランクが1つ上がるだけで金額の桁が1つどころではなく2つも3つも上がるようだ。


「これらすべてを買い取ったらいくらになる?」

「そうですね……およそ龍金貨1枚超える程度かと」

「そうか。ならいらない物以外はすべて買い取るか」


 やはり想像通りこちらの懐事情をよく知っているようだ。前回に宝石などを買い取ってもらった金額がミスリルを抜くと龍金貨1枚と少しだ。なので龍金貨1枚前後を持ってくるだろうと思っていたが予想通りだったな。そして少なくではなく、少し多めに持って来るのもやり手の方法だろう。

 思ったとおりに笑っているが目が鋭いこの老齢の男――アルフォントは侮れないな。まぁ数十年もやっていれば当たり前なのかもしれないが。


「とりあえず1つ1つ種類が違う物の説明を頼めるか?」

「かしこましました。お任せ下さい。それではこちらから説明させて頂きます」


 まずは手押し車の端へ移動し、持ってきた金属の火属性の物から説明をするようだ。

 さすがに上位の物だけを選んだだけあり、すべてが高品質でエリー曰く属性物質が沢山入っているとの事。きっとこれらを融合出来れば更なる高位の魔法を扱えるようになるだろう。

 そして次々と属性金属の説明が終わっていき、もう少しで終わろうとした時、何やら非常に珍しい金属が紹介された。

 それは時を操る事の出来る金属と空間を操る事の出来る金属だという。


 これは是非とも欲しいとさらに集中して説明を聞いていく。

 どうやら時属性を持つ金属は、魔力を通すと一定の小さな空間だが、その場所の時間を操れるという。

 そして空間属性を持つ金属は、魔力を通すと一定の空間に異空間を作る事が出来るという。

 これらを合わせたのがマジックポーチになる。属性金属を使うか、適正があり自分自身で使えるかの差はあるのだが、ポーチの中に異空間を作り、その異空間の時間を極限まで遅くする。これがマジックポーチの仕組みだ。

 だが時魔法には弱点があり、生きている物にはその効果が極小になってしまう。なのでポーチには生きている物が入れないようにまた違う魔法が掛かっているとの事。あとは人間が死んでいても入れないのは制限魔法で入れないようにしているからだとか。

 ――ちなみに制限魔法は光や闇といった特殊魔法の使い手が使えるとの事――


 そして説明を聞く限り、上位の属性金属であっても、この時と空間を操るのはとても難しく、そして操れてもその効果は極々僅かになってしまう。それほど時と空間の魔法は高位の魔法という事であろう。



 だが……下位の属性金属で上位の魔法を使う事が出来る俺ならば……?


「この時と空間の金属を優先的に多めにくれ」

「かしこまりました。この街の商会で売れるだけの量を確保してまいります」


 そう言い残し、再度部屋の外へ出て行く老齢の男――アルフォント。

 きっとあまり量は多くは無いだろう。それだけ貴重な金属だからだ。だが少しでも量が増えたのなら、きっと俺ならば時も空間も操ってみせる。


 それもマジックポーチ如(ごと)きじゃなく、この街すべてを飲み込むほどの異空間を。

 この街すべての生き物を微動だにさせない程に時を止めてやる。


 きっと出来るだろう。これは夢物語ではなく現実で奇跡とも思えることを起こせるはず……

 そう確信を持ちながら目の前にある金属達を眺めていくのである。



 十数分ほど経っただろうか。時と空間の属性金属を取りに行ったアルフォントが帰ってきた。

 持って来た量はやはりそこまで多くは無い。だが最初に持ってきていた量よりは多目であろうか。


「今お売り出来るのはこれだけになります。ご希望の量に足りているでしょうか?」


 ……大丈夫だ。これだけあれば俺はきっと時も空間も操れる。そう確信をし、優先的に2つの属性を買うことに決定した。


「エリー。時と空間以外は何が必要だ?」

「そうですね…… では扱いやすい火と水。あとは威力を求めて雷を。そして風は持っていない属性と同じくらい買いましょう」

「長所を伸ばすやり方だな。わかった、それらを優先するか」


 持っていない属性は土と光、そして闇となる。だが土はそこまで使い勝手がいい属性ではなく、光も闇も使い勝手が悪い。なのでそれらは中位や上位が使えるかどうか程度で止めておき、他のすでに上位を扱える属性をさらに伸ばす方向で決定した。


 これで優先順位は、時と空間を全て買い取り、火と水と雷の属性金属を多めに、そして風と土、光と闇を中位や上位の魔法が使える程度買い込む事にした。風は上位を越えるかもしれんが。

 金が余ればさらに買ってもいいが、そこは今後の資金も必要になるために、ここですべての金を使うわけには行かない。今じゃ大して売れる物もないしな。売れるとすれば使わない装備程度だ。だがそれらは非常事態で使う可能性がある為、あまり売りたくは無い。なので1・2ヶ月程度は暮らせる金は余らせ、それ以外は全てここで金属を買ってしまおう。


 そうして金が許す限り属性金属を買ったことにより、当初持って来た属性金属の殆どを買い取る事になった。

 金額は龍金貨1枚と白金貨2.5枚だ。これで残りは生活資金しか無くなったが、かなりいい買い物をした事だろう。これからは使った金よりも遥かに稼げるようになる。そう思いながら買い取った金属をマジックポーチに入れ、いつも使っている宿屋へ向かうのだった。


「エリーよ。また融合を始める。あとは頼むぞ」

「はい、また以前のように周囲を警戒しておきます」

「頼む。これできっと俺もエリー並に強くなれるだろう」

「ご冗談を。私の数人分は強くなれると思います」

「それならいいがな」


 エリーとの話が終わったらすぐに融合に取り掛かる。まずはすでに持っている属性から済ませることにする。

 もうすでに持っていて操れているので、手に当てた属性金属を体に取り込み、それを全身に満遍なく均等に巡(めぐ)らせるだけでいい。これで火と水、風と雷は終わりだ。

 そして土も他の属性と似たような物なのですぐに終わらせる事が出来た。


 問題は光と闇だ。 一応光はエリーが使えるのでそれを見たことによりどういったものか分かるので問題は無いかもしれない。だが闇は使い方もどんな魔法があるかも分からない。ということは体に取り込むのがいいが、どこに取り込めばより効果を発揮するのか分からないのだ。

 ただ俺の直感だと眼球により多く属性物質を取り込めばいいような気がするので、直感通りに眼球に多めに取り込んでいく。


 これで時と空間以外の属性は終わった。 ようやく本命を融合出来る時が来た。


「ふぅ…… ようやくメインに取り掛かれるな」

「はい、お見事でございます」

「エリーよ。おまえは確か時と空間が使えるのだったか?」

「いえ、時は若干使えますが空間はまだ先になりそうです」

「そうか。だが空間も使えるようになるのか」

「はい。この体を支配した時に色々調べたのですが、空間の素質もあるようですので、もう少しレベルが上がれば使えるようになるかと」

「そうか。では時魔法の使い方だけ教えてもらえるか?」

「はい、分かりました。では時魔法を使う時は――――」


 エリーから聞いた話だと他の魔法と似たような感覚で使えるようだ。

 たとえばファイアなら目の前に火のイメージをし、魔力を通す事で生まれる。大切なのはイメージだ。どこにどのように火を生み出すのか。これが大切だ。

 時魔法はそれを空間にするだけだ。たとえばここからここまでと空間をイメージする。それは正六面体でもよければ単なる丸型でもいい。厚さも自分で決められる。それをイメージすればいい。

 ならば簡単だとすぐさま時の属性金属を融合していく。


 そして今度は空間魔法だ。 だがこれも似たようなイメージだろう。難しいのは異空間とはなんなのか? どこにあるのか? これらが理解できなければ使えないとの事。


 なんだ、そんな事かと思い、俺はいとも簡単に融合し、空間魔法を使って見せたのだ。

 なぜ簡単かというと、俺は数万年も異世界へ次元の裂け目を作りまくっていたのだ。なので空間を把握する術には多少なりとも覚えがある。なので時魔法を操るよりも空間魔法を操る方が楽であった。


「よし、これですべての属性が操れるようになったな。あとは練度高めるだけだ」

「おめでとうございます。また魔力の質が変わった感じがしますね」

「そうか。俺にはまだ分からないが、多分全属性使えることによって少し変化が生じたのだろう」

「はい。特に悪いようには感じませんのでさらに強くなった証でしょう」


 これで全属性が扱えるようになった。軽く全て使ってみたが苦手な属性はないようだ。多少弱い属性があるが、それは属性金属の量の差だろうと思う。

 あとはエリーと話し合い、各属性の練度を高める為に、また鉱山へ行くか、それとも違う場所へ行き、魔法を試しながら行くか相談したが、とりあえずいくつか依頼を受けてみて、冒険者ランクを上げつつ練度も上げる事にした。

 このまま最低ランクのままだと、色々と制限が多いだろう。なので1つや2つくらいランクを上げてはどうかと言ってきた。

 確かに俺はFランクでエリーがBランクだ。この差はこれからの行動に支障をきたすだろう。ならば初心者卒業の目安となるDランクを目処に依頼をこなしていこうという結論に至った。


 なんだか今さらだが、冒険がようやく始まる感じがするが、意外とあながち間違いではないのかもしれないな。

 などと思いながら一休みした後、ゆっくりと冒険者ギルドへと向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る